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相続税の節税対策はいつから始める?税理士が教える効果的な方法
2025-10-16
- 相続税
- 事業承継
相続税対策はいつから始めるべきか
相続税対策は、早ければ早いほど効果的です。多くの方が「まだ元気だから」「縁起でもない」と先延ばしにしがちですが、対策を始めるのに早すぎることはありません。
推奨される開始時期
- 50代から財産の棚卸しを開始
- 60代から本格的な対策を実施
- 70代以降でも遅くない
相続税対策には時間がかかるものが多く、特に生前贈与は長期間にわたって実施することで大きな効果を発揮します。また、相続開始前7年以内の贈与は相続財産に加算されるため、早期から始めることが重要です。
早期に対策を始めるメリット
- 選択肢が多い
- 計画的に実施できる
- 相続人との話し合いの時間がある
- 税負担を大幅に軽減できる
相続対策を放置するリスク
相続対策を後回しにすると、以下のようなリスクがあります。
相続税の負担が増える
何も対策をしないと、法定どおりの相続税がかかります。適切な対策を実施していれば大幅に軽減できたはずの税金を、多額に支払うことになります。
例
相続財産1億円、法定相続人3人の場合
対策なしの場合
基礎控除額:4,800万円
課税遺産総額:5,200万円
相続税の総額:約600万円
10年間の生前贈与を実施した場合
贈与額:110万円 × 2人 × 10年 = 2,200万円
相続財産:7,800万円
課税遺産総額:3,000万円
相続税の総額:約300万円
節税効果:約300万円
遺産分割トラブルが発生する
生前に何も対策をしていないと、相続人間で遺産分割をめぐってトラブルが発生する可能性があります。
よくあるトラブル
- 不動産の分割方法で揉める
- 介護をした相続人とそうでない相続人の間での不公平感
- 事業承継で後継者以外の相続人が不満を持つ
- 相続人の配偶者が口を出す
トラブルを防ぐ方法
- 遺言書の作成
- 生前に家族で話し合う
- 遺留分に配慮した遺言内容
- 生命保険の活用で代償金を準備
納税資金が不足する
相続財産の大半が不動産の場合、相続税を現金で納付できないことがあります。
例
相続財産:自宅5,000万円、預貯金500万円 相続税:600万円 → 預貯金だけでは納税できない
対処法
- 生命保険で納税資金を準備
- 不動産の一部を売却
- 延納・物納の検討
- 生前に不動産を現金化
事業承継が円滑に進まない
事業を営んでいる場合、後継者への承継を計画的に進めないと、事業の継続が困難になる可能性があります。
リスク
- 株式が分散し、経営権が不安定になる
- 後継者以外の相続人が株式を相続し、トラブルになる
- 事業用資産の相続税が高額になり、納税できない
- 取引先や従業員の信頼を失う
効果的な相続税の節税方法
1. 生前贈与の活用
暦年贈与
毎年110万円までの贈与は非課税です。長期間にわたって実施することで、大きな節税効果があります。
計算例:10年間、2人の子どもに贈与
年間贈与額:110万円 × 2人 = 220万円
10年間の総額:220万円 × 10年 = 2,200万円
贈与税:0円
相続財産が2,200万円減少し、相続税を大幅に節税できます。
注意点
- 相続開始前7年以内の贈与は相続財産に加算される
- 定期贈与とみなされないよう、贈与の都度、契約書を作成
- 受贈者が自由に使える状態にする
相続時精算課税制度
60歳以上の親・祖父母から18歳以上の子・孫への贈与について、累計2,500万円まで贈与税を課税せず、相続時に精算する制度です。
活用が有効なケース
- 将来値上がりが見込まれる財産(株式、不動産など)
- 早期に大きな金額を贈与したい場合
2024年からの変更点
2024年以降、年110万円の基礎控除が追加されました。この範囲内の贈与であれば、相続税も贈与税もかかりません。
2. 小規模宅地等の特例の活用
自宅や事業用の土地は、小規模宅地等の特例により、評価額を最大80%減額できます。
特定居住用宅地等(自宅)
- 減額割合:80%
- 限度面積:330㎡
例
自宅の土地の評価額:5,000万円、面積:200㎡
特例適用後:5,000万円 × (1 - 80%) = 1,000万円
節税効果:4,000万円の評価減
適用要件を満たすための対策
- 配偶者が取得する(無条件で適用)
- 同居する子に相続させる
- 別居の場合でも「家なき子特例」の適用を検討
3. 生命保険の活用
生命保険金には非課税枠があります。
非課税限度額
500万円 × 法定相続人の数
例:法定相続人3人の場合
非課税限度額:500万円 × 3人 = 1,500万円
生命保険のメリット
- 非課税枠を活用できる
- 納税資金を確保できる
- 受取人を指定できる
- 相続放棄をした人も受け取れる
効果的な活用方法
- 相続税の納税資金として活用
- 代償金の支払い資金として活用
- 遺留分対策として活用
4. 不動産の活用
賃貸不動産の建築
自用地(更地)に賃貸アパートを建てると、土地と建物の評価額が下がります。
評価額の変化
更地の場合
土地の評価額:5,000万円
賃貸アパートを建てた場合
土地(貸家建付地):5,000万円 × (1 - 借地権割合 × 借家権割合 × 賃貸割合)
= 5,000万円 × (1 - 0.6 × 0.3 × 1.0)
= 5,000万円 × 0.82 = 4,100万円
建物(貸家):建築費2,000万円 → 固定資産税評価額1,200万円
→ 貸家評価:1,200万円 × (1 - 0.3) = 840万円
合計評価額:4,940万円(更地5,000万円より低い)
さらに、借入金で建築すれば、債務控除により相続財産が減少します。
注意点
- 空室リスク、賃料下落リスク
- 借入金の返済負担
- 過度な節税目的の建築は税務署に否認される可能性
タワーマンション節税
タワーマンションの高層階は、市場価格が高い割に相続税評価額が低いため、節税効果があります。
仕組み
市場価格:1億円のタワーマンション高層階 相続税評価額:3,000万円程度
相続税の評価は、固定資産税評価額を基に計算されるため、市場価格より大幅に低くなります。
注意点
- 2024年以降、評価方法の見直しが検討されている
- 露骨な節税目的の購入は税務署に否認される可能性
- 売却時に譲渡所得税がかかる
5. 養子縁組の活用
養子を迎えることで、法定相続人の数が増え、基礎控除額が増加します。
効果
法定相続人が1人増えると、基礎控除額が600万円増加します。
例
法定相続人2人 → 養子1人迎えて3人
基礎控除額:4,200万円 → 4,800万円(600万円増加)
注意点
- 相続税の計算上、実子がいる場合は養子1人まで、実子がいない場合は養子2人まで
- 節税目的のみの養子縁組は否認される可能性
- 他の相続人とのトラブルに注意
6. 教育資金・住宅資金の贈与特例
教育資金の一括贈与(最大1,500万円)
祖父母や父母が、30歳未満の子・孫の教育資金として一括で贈与する場合、最大1,500万円まで非課税です。
住宅取得等資金の贈与(最大1,000万円)
父母や祖父母が、子・孫の住宅取得資金として贈与する場合、省エネ等住宅であれば1,000万円まで非課税です。
活用方法
孫への教育資金贈与と、子への住宅資金贈与を組み合わせることで、短期間に大きな金額を非課税で贈与できます。
7. 墓地・仏壇の生前購入
墓地、墓石、仏壇、仏具は相続税が非課税です。生前に購入しておくことで、相続財産を減らせます。
例
墓地・墓石:500万円 仏壇:100万円 合計:600万円
これらを生前に購入すると、相続財産が600万円減少します。
注意点
- 相続開始後に購入しても非課税にならない
- 生前に購入し、代金も支払っておく必要がある
- 過度に高額なものは否認される可能性
事業承継の税金対策
事業を営んでいる方にとって、事業承継は重要な課題です。後継者への円滑な承継と税負担の軽減を両立させる必要があります。
事業承継税制の活用
法人版事業承継税制
一定の要件を満たせば、非上場株式の贈与税・相続税が猶予され、実質的に免除される制度です。
制度の概要
- 贈与税・相続税が100%猶予される
- 要件を満たし続ければ、最終的に免除される
- 2027年12月31日までの特例措置
主な要件
- 後継者が代表取締役に就任
- 雇用の8割以上を5年間維持
- 5年間の事業継続
- 都道府県知事の認定
メリット
- 多額の自社株にかかる相続税・贈与税が猶予される
- 後継者の税負担を大幅に軽減
注意点
- 要件を満たせなくなると、猶予された税額を納付
- 継続的な報告が必要
- 税理士のサポートが不可欠
個人版事業承継税制
個人事業者が事業用資産を後継者に承継する場合、相続税・贈与税が猶予される制度です。
自社株の評価を下げる対策
役員退職金の支給
退職金を支給することで、会社の純資産が減少し、自社株の評価額が下がります。
不動産の購入
会社で不動産を購入すると、現金が不動産に変わり、評価額が下がります(不動産の評価額は時価より低いため)。
持株会社の設立
持株会社を設立し、株式を移転することで、評価を引き下げられる場合があります。
遺言書の作成
後継者以外の相続人がいる場合、遺言書で後継者に事業用資産や自社株を相続させることを明記します。
遺留分への配慮
遺留分を侵害すると、他の相続人から遺留分侵害額請求を受ける可能性があります。生命保険などで代償金を準備しておくことが重要です。
後継者育成と早期の承継
後継者を早期に決定し、育成することが重要です。また、早めに株式を贈与することで、相続時の税負担を軽減できます。
計画的な株式の贈与
毎年110万円の基礎控除内で株式を贈与し、長期間かけて承継します。
相続時精算課税制度の活用
事業承継税制と相続時精算課税制度を組み合わせることで、贈与税・相続税を大幅に軽減できます。
北九州での相続対策と事業承継
北九州市内の事業者の特徴
北九州市は、製造業や卸売業などの中小企業が多い地域です。多くの事業者が事業承継の課題を抱えています。
よくある課題
- 後継者不在
- 自社株の評価額が高く、相続税の負担が大きい
- 不動産を多く所有しており、納税資金が不足
- 事業承継税制の適用要件を満たせるか不安
税理士への相談
事業承継や相続税対策は非常に複雑であり、専門家のサポートが不可欠です。
税理士に相談するメリット
- 現状の財産評価と相続税の試算
- 最適な節税対策の提案
- 事業承継税制の適用サポート
- 遺言書作成のアドバイス
- 税務調査への対応
北九州で税理士を選ぶポイント
- 相続税・事業承継に強い
- 地域の不動産事情に精通している
- 司法書士や弁護士と連携している
- 実績が豊富
相談すべきタイミング
- 60代に入ったら相続対策を検討
- 事業承継を考え始めたらすぐに相談
- 相続が発生したらできるだけ早く
相続対策の優先順位
全ての対策を一度に実施するのは困難です。以下の優先順位で進めることをお勧めします。
優先度【高】すぐに実施すべき対策
遺言書の作成
財産の分割方法を明確にし、トラブルを防ぎます。
財産の棚卸し
現在の財産を把握し、相続税がどれくらいかかるかを試算します。
生前贈与の開始
暦年贈与は長期間かけて実施することで効果が大きいため、早めに開始します。
優先度【中】計画的に実施すべき対策
生命保険への加入
非課税枠の活用と納税資金の確保のため、加入を検討します。
小規模宅地等の特例の適用準備
同居や事業の継続など、要件を満たすための準備を進めます。
不動産の活用
賃貸不動産の建築など、評価を下げる対策を検討します。
優先度【低】状況に応じて検討すべき対策
養子縁組
基礎控除を増やしたい場合に検討します。
タワーマンション購入
多額の現金がある場合に検討しますが、リスクも考慮が必要です。
まとめ
相続税対策は、早期に開始することで選択肢が広がり、大きな節税効果が期待できます。生前贈与、小規模宅地等の特例、生命保険の活用など、様々な方法を組み合わせることで、税負担を大幅に軽減できます。
一方、相続対策を放置すると、多額の相続税、遺産分割トラブル、納税資金不足、事業承継の失敗などのリスクがあります。特に事業を営んでいる方にとって、事業承継は会社の存続に関わる重要な課題です。
北九州で相続対策や事業承継をお考えの方は、早めに税理士に相談し、ご家族の状況に合わせた最適な対策を進めましょう。専門家のサポートを受けながら、計画的に実施することが成功の鍵です。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な相続税対策・事業承継については、税理士にご相談ください。
