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法人税率と実効税率の違いとは?正しい理解で税負担を把握する
2025-10-18
- 法人税
- 税務実務
法人税率と実効税率の基本的な違い
法人税の負担を考える際、「法人税率」と「実効税率」という 2 つの指標があります。これらは似て非なるもので、実務では両方を正しく理解することが重要です。
法人税率は、法人税法で定められた名目上の税率です。現在、日本の法人税の基本税率は 23.2%とされています。ただし、中小法人(資本金 1 億円以下)の場合、年 800 万円以下の所得については軽減税率 15%が適用されます。
一方、実効税率は、法人税に加えて地方法人税、法人住民税、法人事業税など、法人が実際に負担するすべての税金を合算した実質的な税負担率のことです。投資家や経営者が企業の税負担を正確に把握するためには、この実効税率を見る必要があります。
実効税率の構成要素を詳しく理解する
法人が負担する主な税目
法人が利益に対して負担する税金は、法人税だけではありません。以下の税目が関係します:
- 法人税 - 国税として課される基本的な税金
- 地方法人税 - 法人税額の 10.3%(令和元年 10 月 1 日以降開始事業年度)
- 法人住民税 - 都道府県民税と市町村民税(法人税割)
- 法人事業税 - 都道府県に納める事業活動に対する税金
- 地方法人特別税(特別法人事業税) - 法人事業税に付加される税金
これらすべてを合算して初めて、企業が実際に負担する税率が見えてきます。
実効税率の計算式
実効税率の計算は複雑ですが、基本的な考え方は次の通りです:
実効税率 = (法人税率 × (1 + 地方法人税率 + 住民税率) + 事業税率等)
÷ (1 + 事業税率等)
法人事業税は損金算入できるため、税負担を計算する際には分母に事業税率を加算する必要があります。この点が計算を複雑にしている要因の一つです。
中小法人の実効税率を具体的に計算する
所得 800 万円以下の部分
資本金 1 億円以下の中小法人で、所得が 800 万円以下の場合の実効税率を計算してみましょう。
- 法人税率:15%
- 地方法人税率:15% × 10.3% = 1.545%
- 法人住民税(法人税割):15% × 7% = 1.05%
- 法人事業税:3.5%(標準税率、所得 400 万円以下の場合)
これらを合算すると、実効税率は約**21.4%**程度になります。
所得 800 万円超の部分
800 万円を超える部分には法人税率 23.2%が適用されます:
- 法人税率:23.2%
- 地方法人税率:23.2% × 10.3% = 2.39%
- 法人住民税(法人税割):23.2% × 7% = 1.624%
- 法人事業税:5.3%(標準税率、所得 800 万円超の場合)
この場合の実効税率は約**30.6%**程度となります。
段階的な税率適用の実務
実務では、所得を 800 万円以下の部分と超える部分に分けて、それぞれに対応する実効税率を適用します。例えば、所得 1,500 万円の中小法人の場合:
- 800 万円以下の部分:800 万円 × 21.4% = 171.2 万円
- 800 万円超の部分:700 万円 × 30.6% = 214.2 万円
- 合計税額:385.4 万円
実際の税負担率は 385.4 万円 ÷ 1,500 万円 = 約 25.7%となります。
大法人の実効税率と中小法人との違い
資本金 1 億円超の大法人には、中小法人向けの軽減税率が適用されません。すべての所得に対して 23.2%の法人税率が適用され、さらに外形標準課税が導入されます。
外形標準課税とは、所得だけでなく、資本金や付加価値(人件費等)にも課税する仕組みです。これにより、赤字企業でも一定の税負担が発生します。
大法人の実効税率は、外形標準課税を含めると約**30.6%**程度が一般的です。これは中小法人の所得 800 万円超の部分と同程度ですが、外形標準課税により、利益が少ない場合でも相応の税負担が生じる点が大きな違いです。
実効税率の推移と国際比較から見る日本の税負担
日本の実効税率の引き下げの歴史
日本の法人実効税率は、国際競争力の強化を目的として段階的に引き下げられてきました:
- 平成 27 年度(2015 年):34.62%
- 平成 28 年度(2016 年):29.97%
- 平成 30 年度(2018 年):29.74%
この引き下げにより、企業の国際競争力向上と国内投資の促進が図られています。
主要国との比較
主要先進国の法人実効税率(2024 年時点)を比較すると:
- 日本:29.74%(東京都の場合)
- アメリカ:約 21%(連邦法人税率)
- ドイツ:約 30%
- フランス:25%
- イギリス:25%
- 中国:25%
- 韓国:約 27%
- シンガポール:17%
日本の実効税率は先進国の中では中程度の水準にあります。ただし、シンガポールなどアジアの競合国と比較すると、まだ高い水準にあるとの指摘もあります。
実効税率を実務で活用する場面
投資判断における重要性
企業が新規事業への投資を検討する際、税引後のリターンを正確に計算するには実効税率の把握が不可欠です。名目税率だけで計算すると、実際の手取り利益を過大評価してしまう危険があります。
M&A や事業再編での考慮事項
企業買収や事業統合を検討する際、対象企業の税負担を正確に評価する必要があります。特に、中小法人から大法人への規模拡大時には、実効税率が上昇し、税負担が大幅に増加する可能性があります。
資本金を 1 億円以下に抑えることで中小法人の優遇措置を維持する戦略も、実務では検討されます。ただし、事業規模に見合わない過度な資本政策は、金融機関からの信用評価に影響する可能性もあります。
財務計画と予算策定
年度の予算を策定する際、正確な税負担を見積もることは資金繰り計画の基礎となります。特に、所得が 800 万円前後で推移する企業では、軽減税率の適用の有無が大きく影響するため、慎重な利益計画が求められます。
実効税率を下げるための合法的な戦略
グループ法人税制の活用
100%グループ内の法人間取引では、寄附金の損金不算入・益金不算入や、資産譲渡損益の繰延べなどの特例があります。これらを活用することで、グループ全体の税負担を最適化できます。
税額控除制度の活用
研究開発税制や中小企業投資促進税制など、各種税額控除制度を活用することで、実質的な税負担率を下げることができます。特に、試験研究費の総額に係る税額控除は、適用額が大きくなることもあり、製造業や IT 企業では重要な節税手段です。
地域による税率の違いの活用
法人住民税や事業税の税率は、自治体によって若干異なります。複数の事業所を持つ企業では、所得の帰属を適切に管理することで、税負担を最適化できる可能性があります。
ただし、過度な租税回避と見なされる行為は、税務リスクを伴います。常に税理士など専門家のアドバイスを受けながら、適法な範囲での税務戦略を立てることが重要です。
実効税率を巡る今後の動向
国際的な最低税率(グローバルミニマム課税)の導入
OECD(経済協力開発機構)主導で、多国籍企業に対する国際的な最低税率 15%の導入が進められています。これは、大企業による過度な租税回避を防止するための国際的な枠組みです。
日本でも令和 5 年度税制改正により、グローバルミニマム課税が導入されました。これにより、海外の低税率国に所得を移転する節税手法の効果が限定的になります。
デジタル課税の議論
GAFA をはじめとする巨大 IT 企業に対する適切な課税のあり方が、国際的な議論となっています。物理的な拠点を持たなくても、市場国での事業活動に応じて課税する仕組みが検討されており、今後の実効税率にも影響を与える可能性があります。
まとめ:実効税率の正しい理解が経営判断の質を高める
法人税率と実効税率の違いを理解することは、経営者や経理担当者にとって不可欠な知識です。名目的な法人税率だけを見ていては、実際の税負担を過小評価し、資金繰りや投資判断を誤る危険があります。
中小法人と大法人では適用される税率構造が大きく異なり、企業規模の拡大に伴って税負担率が段階的に上昇することも理解しておく必要があります。また、国際比較の視点を持つことで、日本企業の競争環境を客観的に評価できます。
実務では、税理士などの専門家と連携しながら、自社の実効税率を正確に把握し、適法な範囲での税務戦略を立てることが、企業価値の向上につながります。税制は毎年改正されるため、最新の情報を常にフォローすることも重要です。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務処理や税負担の計算については、必ず最新の法令を確認し、税理士等の専門家にご相談ください。
