BLOGブログ
法人税の中間納付を完全ガイド!計算方法・期限・注意点を解説
2025-10-20
- 法人税
- 税務実務
法人税の中間納付制度の概要と目的
法人税の中間納付制度は、事業年度の中間時点で法人税の一部を前払いする仕組みです。この制度には 2 つの重要な目的があります。
第一に、国の税収の早期確保です。年度末の確定申告まで待たずに、事業年度の途中で税金を徴収することで、国の財政運営を安定させます。
第二に、納税者の資金繰りの平準化です。年度末に一括で納税するのではなく、中間時点で分割納付することで、企業の資金繰り負担を軽減する効果があります。
中間納付は義務であり、対象となる法人は必ず納付しなければなりません。ただし、すべての法人が対象となるわけではなく、一定の要件を満たす場合に限られます。
中間納付の対象となる法人と納付回数
前期の法人税額による判定
中間納付の対象となるかどうかは、前期の法人税額(国税としての法人税のみ、地方法人税・住民税・事業税は含まない)で判定します。
納付回数の基準:
- 前期の法人税額が 20 万円以下 → 中間納付不要
- 前期の法人税額が 20 万円超 → 中間納付 1 回(事業年度開始から 6 か月後)
- 前期の法人税額が 400 万円超 → 中間納付 11 回(毎月)
中小企業の多くは、前期の法人税額が 20 万円超 400 万円以下となり、年 1 回の中間納付を行うケースが一般的です。
新設法人の扱い
設立第 1 期の法人には前期の実績がないため、中間納付の義務はありません。ただし、設立第 1 期が 1 年を超える場合は、特例的に中間申告が必要になるケースもあります。
事業年度が変則的な場合
事業年度が 12 か月に満たない場合や、決算期を変更した場合など、変則的なケースでは中間納付の要否や回数が変わります。事業年度が 6 か月以下の場合は、中間申告期限が到来しないため、中間納付は不要です。
予定申告方式による中間納付の計算方法
基本的な計算式
予定申告方式は、前期の法人税額を基準に中間納付額を計算する簡便な方法です。
中間納付額 = 前期の法人税額 × 6/前期の月数
前期が 12 か月の場合:
中間納付額 = 前期の法人税額 × 6/12 = 前期の法人税額 × 1/2
具体的な計算例
前期の法人税額が 300 万円(事業年度 12 か月)の場合:
中間納付額 = 300万円 × 6/12 = 150万円
この 150 万円を事業年度開始から 6 か月を経過した日から 2 か月以内に納付します。
前期が 12 か月未満の場合
前期の事業年度が 12 か月未満の場合、年換算して計算します。
前期の法人税額が 100 万円(事業年度 9 か月)の場合:
中間納付額 = 100万円 × 6/9 = 約66.7万円
千円未満は切り捨てるため、実際の中間納付額は 66.6 万円となります。
仮決算方式による中間納付の選択
仮決算方式とは
仮決算方式は、事業年度開始から 6 か月を 1 つの事業年度とみなして仮決算を行い、その期間の実績に基づいて中間納付額を計算する方法です。
業績が前期より悪化している場合や、赤字が見込まれる場合に有利になります。
仮決算方式のメリット
前期の法人税額が 300 万円、当期上半期が赤字の場合:
- 予定申告方式:150 万円を納付(後日還付)
- 仮決算方式:0 円(または少額)の納付
仮決算方式を選択することで、不要な資金流出を避けられます。
仮決算方式のデメリットと注意点
仮決算方式には以下のデメリットがあります:
- 事務負担が大きい - 中間決算書の作成、法人税申告書の作成が必要
- 税理士報酬が増加 - 追加の決算業務により費用が発生
- 一度選択したら変更不可 - 予定申告方式への切替はできない
実務では、資金繰りへの影響と事務負担を比較検討して選択します。
仮決算方式の申告期限
仮決算方式を選択する場合も、申告・納付期限は予定申告方式と同じです。事業年度開始から 6 か月を経過した日から 2 か月以内に申告・納付が必要です。
中間納付の期限と納付方法
納付期限の計算
中間納付の期限は、事業年度開始から 6 か月を経過した日から 2 か月以内です。
3 月決算法人(4 月 1 日~ 3 月 31 日)の場合:
- 中間納付基準日:10 月 1 日(事業年度開始から 6 か月経過)
- 中間納付期限:11 月 30 日(基準日から 2 か月以内)
12 月決算法人(1 月 1 日~ 12 月 31 日)の場合:
- 中間納付基準日:7 月 1 日
- 中間納付期限:8 月 31 日
予定申告方式の場合の簡便処理
予定申告方式を選択する場合、申告書を提出しなくても、税務署から送付される「中間申告書(予定申告用)」に記載された金額を納付すれば足ります。
申告書の提出を省略できるため、実務上は納付だけを行うケースが多く見られます。
納付方法の選択肢
中間納付の納付方法には以下の選択肢があります:
- 金融機関・税務署窓口での納付 - 納付書を使用
- ダイレクト納付(e-Tax) - 事前届出が必要
- インターネットバンキング - Pay-easy 対応
- クレジットカード納付 - 手数料が発生
- コンビニ納付 - 30 万円以下の場合のみ
ダイレクト納付は手数料不要で、期限日に自動引落しの設定もできるため、納付忘れ防止に効果的です。
確定申告時の中間納付額の取り扱い
年税額からの控除
中間納付額は、確定申告時に年税額から控除されます。
年税額 280 万円、中間納付 150 万円の場合:
確定申告時の納付額 = 280万円 - 150万円 = 130万円
還付が発生する場合
年税額が中間納付額を下回る場合、差額が還付されます。
年税額 100 万円、中間納付 150 万円の場合:
還付額 = 150万円 - 100万円 = 50万円
還付申告後、通常 1 ~ 2 か月程度で還付金が振り込まれます。還付金には還付加算金(利息相当)が付く場合もあります。
欠損(赤字)の場合
当期が欠損(赤字)の場合、年税額はゼロとなり、中間納付額の全額が還付されます。
中間納付 150 万円、当期赤字の場合:
還付額 = 150万円
仮決算方式を選択していれば、このような還付を避けることができます。
中間納付を忘れた場合のペナルティ
延滞税の発生
中間納付の期限までに納付しなかった場合、延滞税が課されます。延滞税は納付期限の翌日から実際の納付日までの日数に応じて計算されます。
延滞税の税率(令和 6 年の場合):
- 納期限から 2 か月以内:年 2.4%
- 納期限から 2 か月超:年 8.7%
税率は市中金利に応じて変動するため、最新の税率を確認する必要があります。
無申告加算税は課されない
中間申告は予定申告であり、確定申告とは性質が異なるため、申告書を提出しなくても無申告加算税は課されません。ただし、納付すべき税額に対する延滞税は発生します。
資金繰りへの影響
中間納付を失念すると、確定申告時に年税額全額を一括納付することになり、資金繰りに大きな影響を与えます。カレンダーやリマインダーで管理し、納付漏れを防ぐことが重要です。
地方税(住民税・事業税)の中間納付
法人税と同様に、地方税(法人住民税・法人事業税)にも中間納付制度があります。
法人住民税の中間納付
法人住民税(法人税割)の中間納付額は、前期の法人税割額を基準に計算します。
中間納付額 = 前期の法人住民税(法人税割)× 6/12
納付期限は法人税と同じです。
法人事業税の中間納付
法人事業税の中間納付は、前期の法人事業税額(地方法人特別税を含む)を基準に計算します。
中間納付額 = 前期の法人事業税 × 6/12
納付期限は法人税と同じです。
地方税の仮決算方式
法人税で仮決算方式を選択した場合、地方税についても仮決算方式による中間申告が必要です。法人税だけ仮決算方式、地方税は予定申告方式という選択はできません。
中間納付に関する実務上のポイント
資金繰り計画への組み込み
中間納付は金額が大きくなるため、事前に資金繰り計画に組み込むことが重要です。特に初めて中間納付の対象となる法人は、想定外の資金流出にならないよう注意が必要です。
予定申告と仮決算の判断基準
実務では以下の判断基準で方式を選択します:
予定申告方式が適している場合:
- 前期並みか、それ以上の業績が見込まれる
- 事務負担を最小限にしたい
- 資金繰りに余裕がある
仮決算方式が適している場合:
- 業績が前期より大幅に悪化している
- 赤字が見込まれる
- 資金繰りが厳しい
- 決算体制が整っており、追加の事務負担が許容できる
税理士との連携
中間納付の方式選択や納付額の計算は、税理士と相談しながら決定するのが一般的です。特に仮決算方式を検討する場合は、早めに税理士に相談し、中間決算の準備を進める必要があります。
電子申告・納税の活用
e-Tax を利用した電子申告・納税により、税務署に出向く手間が省けます。ダイレクト納付を設定しておけば、納付忘れのリスクも軽減できます。
まとめ:中間納付の正しい理解で適切な資金管理を
法人税の中間納付制度は、納税者の資金繰り平準化と国の税収確保という 2 つの目的を持つ重要な制度です。前期の法人税額が 20 万円を超える法人は、原則として中間納付の義務があります。
予定申告方式と仮決算方式の 2 つの方法があり、企業の業績や資金繰り状況に応じて適切な方式を選択することが重要です。納付期限を守り、延滞税の発生を防ぐためにも、計画的な資金管理が求められます。
中間納付に関する疑問や判断が必要な場合は、税理士などの専門家に相談し、自社の状況に最適な対応を行いましょう。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務処理については、必ず最新の法令を確認し、税理士等の専門家にご相談ください。
