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中小企業の法人税率を徹底解説!軽減税率の要件と節税のポイント
2025-10-21
- 法人税
- 中小企業
中小企業の法人税軽減税率制度とは
中小企業には、法人税の負担を軽減するための特別な税率が設定されています。これは中小企業の経営を支援し、雇用の維持・創出を促進するための重要な政策的配慮です。
基本税率と軽減税率の比較:
- 大企業(原則):すべての所得に 23.2%
- 中小企業:年 800 万円以下の所得に 15%、800 万円超の部分に 23.2%
この 8.2 ポイントの税率差は、中小企業にとって大きな節税効果をもたらします。例えば、所得 800 万円の場合、税額差は約 65.6 万円にもなります。
軽減税率制度を正しく理解し、適用要件を満たすことは、中小企業経営における重要な財務戦略です。
中小企業の定義と適用要件
資本金基準による判定
法人税の軽減税率が適用される「中小法人」の要件は、以下の通りです:
基本要件:
- 資本金の額または出資金の額が 1 億円以下の法人
この要件を満たす法人が、原則として中小法人として軽減税率の適用を受けられます。
除外される法人(大法人の子会社等)
ただし、資本金 1 億円以下でも、以下に該当する法人は軽減税率の適用対象外となります:
-
100%子会社
- 資本金 5 億円以上の大法人の 100%子会社
-
100%グループ内法人
- 複数の大法人に 100%保有されている法人
具体例:
- A 社(資本金 10 億円)が B 社(資本金 5,000 万円)の株式を 100%保有している場合、B 社は軽減税率の適用を受けられません。
資本金と資本金等の額の違い
判定に使用するのは「資本金の額」であり、「資本金等の額」ではありません。
- 資本金の額 = 登記簿上の資本金
- 資本金等の額 = 資本金 + 資本準備金等
資本準備金が多額にある場合でも、資本金が 1 億円以下であれば、原則として中小法人に該当します。
軽減税率の適用範囲と税率構造
年 800 万円の判定と月割計算
軽減税率 15%が適用されるのは、年 800 万円以下の所得部分です。
事業年度が 12 か月の場合:
- 所得 800 万円以下の部分:15%
- 所得 800 万円超の部分:23.2%
事業年度が 12 か月未満の場合:
軽減税率の適用限度額は月割計算されます。
適用限度額 = 800万円 × 事業年度の月数 / 12
事業年度が 9 か月の場合:
適用限度額 = 800万円 × 9/12 = 600万円
600 万円以下の部分に 15%、600 万円超の部分に 23.2%が適用されます。
実際の税額計算例
ケース 1:所得 500 万円の中小法人
500万円 × 15% = 75万円
大企業なら:500 万円 × 23.2% = 116 万円 節税効果:41 万円
ケース 2:所得 1,500 万円の中小法人
800万円 × 15% = 120万円
700万円 × 23.2% = 162.4万円
合計:282.4万円
大企業なら:1,500 万円 × 23.2% = 348 万円 節税効果:65.6 万円
ケース 3:所得 3,000 万円の中小法人
800万円 × 15% = 120万円
2,200万円 × 23.2% = 510.4万円
合計:630.4万円
大企業なら:3,000 万円 × 23.2% = 696 万円 節税効果:65.6 万円
所得が増加しても、節税効果の上限は約 65.6 万円(800 万円 × 8.2%)となります。
資本金 1 億円以下を維持する戦略と注意点
資本政策の重要性
企業が成長しても軽減税率の適用を継続するため、資本金を 1 億円以下に抑える戦略を取る企業が多く見られます。
資本金を増やさずに資金調達する方法:
-
資本準備金として積み立てる
- 増資の際、半分まで資本準備金に組み入れ可能
-
借入金による調達
- 銀行借入やローンを活用
-
内部留保の活用
- 利益の蓄積による自己資金の充実
資本金 1 億円ちょうどの場合
資本金がちょうど 1 億円の法人は「1 億円以下」に該当するため、軽減税率の適用を受けられます。ただし、1 円でも超えると適用外となるため、増資の際は慎重な判断が必要です。
資本金の額の減少(減資)
一度増資して 1 億円を超えた場合でも、減資により 1 億円以下に戻せば、再び軽減税率の適用を受けられます。
ただし、減資には以下の手続きが必要です:
- 株主総会の特別決議
- 債権者保護手続き
- 登記申請
減資は債権者や取引先に財務状況の悪化と受け取られる可能性もあるため、実施には慎重な判断が求められます。
中小企業に適用される他の税制優遇措置
軽減税率以外にも、中小企業には様々な税制優遇措置があります。
交際費の損金算入特例
中小法人:
- 年 800 万円まで全額損金算入可能
- または、接待飲食費の 50%を損金算入(どちらか有利な方を選択)
大法人:
- 接待飲食費の 50%のみ損金算入
少額減価償却資産の特例
中小企業(青色申告):
- 取得価額 30 万円未満の減価償却資産を即時償却可能
- 年間合計 300 万円まで
大企業:
- 10 万円未満のみ即時償却
欠損金の繰越控除制度
中小法人:
- 欠損金の全額を翌期以降に繰越控除可能
大法人:
- 繰越控除額は所得の 50%まで制限
これらの優遇措置により、中小企業の実質的な税負担はさらに軽減されます。
大法人グループ子会社の取り扱い
100%子会社の判定
大法人の 100%子会社に該当するかどうかは、事業年度終了時の状況で判定します。
期中に株式譲渡があった場合:
- 事業年度終了時に 100%子会社でなければ、その事業年度は軽減税率適用可能
複数の大法人による保有
複数の大法人(各社の資本金 5 億円以上)が合計で 100%保有している場合も、軽減税率の適用はありません。
具体例:
- A 社(資本金 10 億円)が 60%保有
- B 社(資本金 8 億円)が 40%保有
- 合計で 100%保有 → 軽減税率適用外
グループ通算制度との関係
令和 4 年度からグループ通算制度が導入されましたが、通算グループ内の中小法人でも、大法人の 100%子会社等に該当しなければ、軽減税率の適用を受けられます。
実効税率で見る中小企業の税負担
法人税だけでなく、地方税を含めた実効税率で中小企業の税負担を見てみましょう。
所得 800 万円以下の部分の実効税率
- 法人税:15%
- 地方法人税:15% × 10.3% = 1.545%
- 法人住民税:15% × 7% = 1.05%
- 法人事業税:約 3.5%
実効税率:約 21.4%
所得 800 万円超の部分の実効税率
- 法人税:23.2%
- 地方法人税:23.2% × 10.3% = 2.39%
- 法人住民税:23.2% × 7% = 1.624%
- 法人事業税:約 5.3%
実効税率:約 30.6%
大企業との比較
大企業の実効税率は約 30.6%(外形標準課税を除く)であり、中小企業の所得 800 万円超の部分と同程度です。
所得 800 万円以下の部分では、約 9.2 ポイントの税率差があり、これが中小企業の競争力を支える重要な要素となっています。
軽減税率の適用を受けるための実務手続き
確定申告での記載
軽減税率の適用を受けるための特別な申請手続きは不要です。確定申告書(別表一)に軽減税率適用の所得金額と税額を正しく記載すれば、自動的に適用されます。
大法人の子会社等に該当する場合の届出
大法人の 100%子会社等に該当し、軽減税率の適用が受けられない場合、その旨を申告書に記載する必要があります。
資本金の変動があった場合
事業年度中に増資・減資があった場合、期末時点の資本金の額で判定します。期中の変動は影響しません。
中小企業の税務戦略と留意点
適正な資本政策の立案
資本金を 1 億円以下に抑えることで軽減税率の適用を受けられますが、以下の点にも留意が必要です:
メリット:
- 法人税の軽減
- 交際費等の優遇措置
- 少額減価償却資産の特例
デメリット:
- 金融機関からの信用力低下の可能性
- 取引先からの評価への影響
- 大型プロジェクトの受注機会の制限
総合的な経営判断として、税負担軽減だけでなく、事業戦略や資金調達の観点も含めて検討することが重要です。
他の税制優遇措置との併用
中小企業向けの税制優遇措置は複数あり、適切に活用することで税負担をさらに軽減できます。
- 中小企業投資促進税制
- 中小企業経営強化税制
- 研究開発税制(中小企業技術基盤強化税制)
- 所得拡大促進税制
税理士と相談しながら、自社に適用可能な制度を最大限活用しましょう。
事業承継時の注意点
事業承継に伴う株式移転や組織再編により、大法人の子会社となる可能性があります。軽減税率の適用が受けられなくなると、税負担が大幅に増加するため、事前のシミュレーションが重要です。
まとめ:中小企業の税率優遇を最大限活用する
中小企業の法人税軽減税率制度は、資本金 1 億円以下の法人に年 800 万円以下の所得について 15%の税率を適用する制度です。大企業との税率差は 8.2 ポイントあり、最大で年間約 65.6 万円の節税効果があります。
ただし、大法人の 100%子会社等は適用対象外となるため、資本政策や株主構成には注意が必要です。また、軽減税率だけでなく、交際費や少額減価償却資産の特例など、中小企業向けの総合的な優遇措置を活用することで、さらなる税負担の軽減が可能です。
資本金の維持・調整は、税務面だけでなく、金融機関や取引先との関係にも影響するため、税理士や経営コンサルタントと相談しながら、総合的な判断を行うことが重要です。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断については、必ず最新の法令を確認し、税理士等の専門家にご相談ください。
