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法人税とは何か?誰が払うのか基礎から分かりやすく解説
2025-10-22
- 法人税
- 税務基礎
法人税とは何か?その基本的な仕組み
法人税とは、法人が事業活動を通じて得た利益(所得)に対して課される国税です。個人の所得税に相当する税金で、法人の経済活動から生じる税負担を定めた重要な税目です。
法人税は国の税収の重要な柱の一つであり、令和 5 年度の税収は約 14 兆円程度と見込まれており、国税全体の約 2 割を占めています。
法人税の 3 つの特徴:
- 法人格を持つ組織が納税義務者 - 個人ではなく法人が納税
- 所得に対する課税 - 売上ではなく利益(所得)に課税
- 申告納税方式 - 法人自ら税額を計算し申告・納付
法人税を正しく理解することは、法人経営の基礎であり、適切な税務コンプライアンスの第一歩です。
法人税を払う義務がある法人とは
内国法人と外国法人
法人税法では、法人を「内国法人」と「外国法人」に区分し、課税範囲を定めています。
内国法人:
- 日本国内に本店または主たる事務所がある法人
- すべての所得に対して日本の法人税が課税される(全世界所得課税)
外国法人:
- 日本国内に本店または主たる事務所がない法人
- 日本国内源泉所得のみに課税される(国内源泉所得課税)
一般的な日本企業は内国法人に該当し、国内外すべての所得が法人税の課税対象となります。
普通法人 - 一般的な営利法人
普通法人に該当する法人:
- 株式会社
- 合名会社
- 合資会社
- 合同会社
- 相互会社(保険会社)
これらの営利目的で設立された法人は、すべての所得に対して法人税が課されます。ほとんどの企業がこの普通法人に該当します。
協同組合等 - 特別な税率が適用される法人
協同組合等に該当する法人:
- 農業協同組合(JA)
- 漁業協同組合
- 中小企業等協同組合
- 信用金庫、信用組合
- 労働者協同組合
これらの法人には、一般の法人より低い税率(15%または 19%)が適用される場合があります。
公益法人等 - 収益事業のみ課税
公益法人等に該当する法人:
- 公益社団法人・公益財団法人
- 一般社団法人・一般財団法人
- 宗教法人
- 学校法人
- 社会福祉法人
- NPO 法人(特定非営利活動法人)
これらの法人は、原則として収益事業から生じる所得のみが法人税の課税対象となります。
収益事業の範囲(法人税法施行令第 5 条):
- 物品販売業
- 不動産販売業、不動産貸付業
- 製造業
- 飲食店業
- 請負業
- その他 34 業種
公益法人でも、収益事業を行っている場合は法人税の申告・納付が必要です。
人格のない社団等
法人格を持たない任意団体でも、以下の要件を満たす場合は法人税の納税義務があります:
- 団体として組織されている
- 多数の者の結合体である
- 単なる個人の集合体ではない
- 団体としての規約がある
- 代表者または管理人の定めがある
例:同窓会、町内会、マンション管理組合(管理費で収益事業を行う場合)
個人事業主は法人税を払わない
個人事業主は法人ではないため、法人税を払う義務はありません。個人事業主は「所得税」を納付します。
個人事業主と法人の税金の違い
個人事業主:
- 課税対象:個人の所得
- 税目:所得税(国税)+ 住民税(地方税)
- 税率:累進課税(5% ~ 45%)+ 住民税 10%
- 申告方法:確定申告(翌年 3 月 15 日まで)
法人:
- 課税対象:法人の所得
- 税目:法人税(国税)+ 地方法人税 + 法人住民税・事業税
- 税率:比例税率(15% ~ 23.2%)+ 地方税
- 申告方法:法人税申告(事業年度終了から 2 か月以内)
法人成りすると誰が納税義務者になるか
個人事業から法人化(法人成り)すると、納税義務者が個人から法人に変わります。
法人成り前:
- 納税義務者:個人事業主本人
- 税目:所得税・住民税
法人成り後:
- 納税義務者:設立した法人
- 税目:法人税・地方法人税・法人住民税・法人事業税
個人は法人から役員報酬として給与を受け取り、その給与所得に対して所得税を納めることになります。
法人税を払う人と実際に負担する人
法人税の納税義務者は法人自身
法人税の納税義務を負うのは、あくまで法人自身です。代表取締役個人や株主個人ではありません。
重要なポイント:
- 法人税の申告書は法人名義で提出
- 法人税の納付も法人の預金口座から支払う
- 代表者個人の財産から支払う義務はない(原則)
ただし、税務調査で不正が発覚した場合や、滞納処分の場合には、代表者に第二次納税義務が及ぶこともあります。
経済的な負担は誰が負うのか
法人税の法律上の納税義務者は法人ですが、経済的な負担は最終的に以下の関係者が負うことになります:
1. 株主(配当の減少)
- 法人税を支払った後の利益から配当が支払われる
- 税負担が大きいほど、株主への配当が減少
2. 従業員(賃金上昇の抑制)
- 税負担により内部留保が減少
- 賃上げの余地が縮小する可能性
3. 消費者(価格への転嫁)
- 税負担を価格に転嫁する場合
- 商品・サービス価格の上昇
4. 取引先(取引条件の変化)
- 税負担を考慮した取引条件の設定
このように、法人税の経済的負担は、法人を取り巻く様々なステークホルダーに間接的に影響を及ぼします。
法人の種類別の課税関係
株式会社の場合
最も一般的な法人形態です。
- 納税義務:すべての所得に法人税が課税
- 税率:中小法人は所得 800 万円以下 15%、800 万円超 23.2%
- 特徴:株主と経営が分離、利益は配当として株主に還元
合同会社(LLC)の場合
近年増加している法人形態です。
- 納税義務:株式会社と同様、すべての所得に課税
- 税率:株式会社と同じ
- 特徴:設立費用が安い、経営の自由度が高い
一般社団法人・一般財団法人の場合
非営利型か営利型かで課税が異なります。
非営利型一般社団法人:
- 収益事業から生じる所得のみ課税
- 会員からの会費は原則非課税
営利型一般社団法人:
- すべての所得に課税(株式会社と同様の扱い)
非営利型の要件を満たさない場合、自動的に営利型となり、全所得が課税対象になります。
NPO 法人(特定非営利活動法人)の場合
- 収益事業から生じる所得のみ課税
- NPO 法人の本来事業(特定非営利活動)は非課税
- 寄附金収入も原則非課税
ただし、物販や飲食店経営など、34 業種の収益事業を行う場合は法人税の申告が必要です。
宗教法人・学校法人の場合
宗教法人:
- お布施、寄附金は非課税
- 収益事業(出版、物品販売等)は課税
学校法人:
- 学生からの授業料等は非課税
- 収益事業(書籍販売、施設貸出等)は課税
外国法人の課税関係
日本国内に支店がある場合
外国法人が日本国内に支店や営業所を持つ場合、その支店等の活動から生じる所得に対して日本の法人税が課されます。
課税対象:
- 日本国内の恒久的施設(PE: Permanent Establishment)に帰属する所得
- 日本国内源泉所得
日本国内に支店がない場合
支店等がなくても、日本国内源泉所得がある場合は、源泉徴収により課税されます。
例:
- 日本企業への技術提供の対価(ロイヤリティ)
- 日本企業からの配当金
- 日本国内の不動産賃貸収入
法人税を払わなくてよい法人
国・地方公共団体
国や都道府県、市町村は法人税を納める必要はありません。
公共法人
以下の法人も法人税の納税義務がありません:
- 日本銀行
- 日本放送協会(NHK)
- 日本年金機構
人格なき社団等で収益事業を行わない場合
任意団体でも、収益事業を行わず、構成員の共同利用のためだけに活動している場合は課税されません。
法人成りを検討するタイミング
個人事業主から法人化すると、所得税から法人税に納税義務が切り替わります。
法人化のメリット
税率面:
- 所得が一定以上(目安:800 万円超)になると、法人税率の方が有利になる
- 所得分散(役員報酬)により税負担を軽減できる
経費面:
- 役員退職金を経費計上できる
- 生命保険料、出張日当など、法人特有の経費が認められる
信用面:
- 取引先からの信用が向上
- 金融機関からの融資が受けやすくなる
法人化のデメリット
コスト面:
- 設立費用(株式会社で約 25 万円、合同会社で約 10 万円)
- 税理士報酬の増加(個人より高額)
- 社会保険の強制加入(保険料負担増)
事務負担:
- 決算・申告の複雑化
- 法人登記の維持管理
- 議事録等の書類作成
一般的には、年間所得が 800 万円を超えるようになったタイミングで、法人化を検討する価値があります。
まとめ:法人税の納税義務者を正しく理解する
法人税は、法人格を持つ組織が事業活動を通じて得た所得に対して課される税金です。納税義務者は法人自身であり、代表者個人や株主個人ではありません。
株式会社や合同会社などの普通法人はすべての所得に対して課税されますが、公益法人や NPO 法人は収益事業から生じる所得のみが課税対象となります。個人事業主は法人税ではなく所得税を納めますが、法人化することで法人税の納税義務者となります。
法人化のタイミングは、税負担だけでなく、事業規模、資金調達、社会的信用など、総合的に判断する必要があります。税理士など専門家に相談しながら、自身の事業に最適な選択を行いましょう。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断については、必ず最新の法令を確認し、税理士等の専門家にご相談ください。
