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適格請求書発行事業者とは?インボイス制度の基本を分かりやすく解説

2025-11-05
  • 消費税
  • インボイス制度

適格請求書発行事業者とは何か

適格請求書発行事業者とは、消費税の適格請求書(インボイス)を発行できる事業者として、税務署長の登録を受けた事業者のことです。令和5年10月1日から始まったインボイス制度の中核となる概念です。

適格請求書発行事業者になるためには、税務署に登録申請を行い、登録番号の交付を受ける必要があります。この登録番号を記載した請求書が「適格請求書(インボイス)」となり、取引先が仕入税額控除を受けるために必要となります。

重要なポイント:

  • 適格請求書発行事業者の登録は任意(強制ではない)
  • ただし、登録しないと取引先が仕入税額控除できない
  • 免税事業者も登録可能だが、登録すると課税事業者となる

インボイス制度が導入された背景と目的

消費税の適正な転嫁と納税の確保

インボイス制度の主な目的は、消費税の適正な転嫁と納税の確保です。従来の制度では、免税事業者からの仕入でも仕入税額控除ができたため、実際には消費税を納めていない免税事業者が消費税相当額を請求できる「益税」の問題がありました。

インボイス制度により、適格請求書を発行できる課税事業者からの仕入のみが仕入税額控除の対象となり、消費税の適正な転嫁と納税が確保されます。

複数税率への対応

軽減税率(8%)と標準税率(10%)という複数の税率が存在する中で、それぞれの取引にどの税率が適用されているかを明確にする必要があります。適格請求書には税率ごとの金額を明記することが義務付けられています。

適格請求書発行事業者になれる事業者

課税事業者であることが前提

適格請求書発行事業者になるには、消費税の課税事業者であることが必要です。

課税事業者とは:

  • 基準期間(2期前)の課税売上高が1,000万円超の事業者
  • 特定期間(前期の前半6か月)の課税売上高が1,000万円超の事業者
  • 課税事業者選択届出書を提出した事業者
  • 新設法人で資本金1,000万円以上の法人

免税事業者も登録可能

基準期間の課税売上高が1,000万円以下の免税事業者も、適格請求書発行事業者の登録申請ができます。ただし、登録日から課税事業者となり、消費税の申告・納税義務が発生します。

免税事業者が登録する場合の注意点:

  • 登録日から課税事業者となる
  • 課税事業者選択届出書の提出は不要
  • 登録後は消費税の申告・納税が必要

適格請求書発行事業者の登録方法

登録申請の手続き

登録を希望する事業者は、「適格請求書発行事業者の登録申請書」を所轄の税務署長に提出します。

申請方法:

  1. 書面による申請 - 登録申請書を税務署に郵送または持参
  2. e-Taxによる電子申請 - オンラインで申請(推奨)

e-Taxによる申請は、24時間受付可能で、審査結果の通知も早いため、推奨されています。

登録までの期間

税務署での審査には通常1~2か月程度かかります。申請から登録通知までの流れは以下の通りです:

  1. 登録申請書の提出
  2. 税務署での審査(形式的要件の確認)
  3. 登録簿への登載
  4. 登録通知書の送付
  5. 国税庁のインボイス制度適格請求書発行事業者公表サイトに情報公表

登録番号の構成

登録を受けると、登録番号が通知されます。

法人の場合:

T + 法人番号(13桁)
例:T1234567890123

個人事業主の場合:

T + 13桁の数字(新たに付番)
例:T1234567890123

法人の場合は既存の法人番号を使用するため、取引先から容易に法人情報を確認できます。

適格請求書(インボイス)に必要な記載事項

適格請求書には、従来の請求書の記載事項に加えて、以下の項目が必要です:

必須記載事項

  1. 適格請求書発行事業者の氏名または名称および登録番号
  2. 取引年月日
  3. 取引内容(軽減税率対象品目である場合はその旨)
  4. 税率ごとに区分して合計した対価の額(税抜または税込)および適用税率
  5. 税率ごとに区分した消費税額等
  6. 書類の交付を受ける事業者の氏名または名称

記載例

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
        請求書
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

株式会社〇〇商事 御中

登録番号:T1234567890123
株式会社△△物産
〒100-0001 東京都千代田区...

請求日:令和6年11月20日

品名              金額
─────────────────────
商品A(10%対象)    10,000円
商品B(8%対象)※     5,000円
─────────────────────
10%対象           10,000円
 消費税(10%)      1,000円
8%対象             5,000円
 消費税(8%)         400円
─────────────────────
合計金額           16,400円

※は軽減税率対象品目
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

適格請求書発行事業者になるメリット

取引先の仕入税額控除を確保

最大のメリットは、取引先が仕入税額控除を受けられることです。特にBtoB取引では、適格請求書を発行できないと取引継続が難しくなる可能性があります。

取引機会の維持・拡大

課税事業者である取引先は、仕入税額控除ができない免税事業者からの仕入を避ける傾向があります。適格請求書発行事業者として登録することで、取引機会を維持・拡大できます。

信用力の向上

登録番号を持つことで、取引先からの信用が向上します。国税庁の公表サイトで事業者情報が確認できるため、透明性が高まります。

適格請求書発行事業者になるデメリット

消費税の納税義務の発生

免税事業者が登録すると、課税事業者となり消費税の納税義務が発生します。これまで免税だった事業者にとっては、新たな税負担となります。

年間売上500万円(税抜)の場合の影響:

  • 簡易課税制度(みなし仕入率80%)を選択した場合
  • 消費税額:500万円 × 10% × (1 - 0.8) = 10万円の納税

事務負担の増加

増加する事務作業:

  • 適格請求書の様式に沿った請求書作成
  • 税率ごとの売上管理
  • 仕入税額控除の要件確認
  • 消費税申告書の作成と提出

特に小規模事業者にとっては、事務負担の増加が経営を圧迫する可能性があります。

会計システムの改修

既存の会計システムがインボイス制度に対応していない場合、システムの改修や買い替えが必要になり、初期投資が発生します。

免税事業者が受ける影響と対応策

取引への影響

免税事業者のままでいる場合、以下の影響が考えられます:

BtoB取引の場合:

  • 取引先が仕入税額控除できないため、取引縮小のリスク
  • 値下げ交渉を求められる可能性
  • 新規取引が困難になる可能性

BtoC取引の場合:

  • 消費者(一般個人)は仕入税額控除を行わないため影響は限定的
  • 免税事業者のままでも取引への影響は少ない

経過措置の活用

令和5年10月1日から令和11年9月30日までの6年間は、経過措置により、免税事業者からの仕入でも一定割合の仕入税額控除が認められます:

  • 令和5年10月1日~令和8年9月30日:80%控除可能
  • 令和8年10月1日~令和11年9月30日:50%控除可能

この期間中は、免税事業者との取引でも一定の仕入税額控除ができるため、影響が緩和されます。

簡易課税制度の活用

課税事業者となる場合、簡易課税制度を選択することで、事務負担を軽減できます。

簡易課税制度の要件:

  • 基準期間の課税売上高が5,000万円以下
  • 「消費税簡易課税制度選択届出書」を事前に提出

簡易課税では、実際の仕入額を集計せず、みなし仕入率で消費税を計算できます。

適格請求書発行事業者の義務と責任

適格請求書の交付義務

適格請求書発行事業者は、課税事業者から求められた場合、適格請求書を交付する義務があります。

交付義務の例外(適格簡易請求書で可):

  • 小売業
  • 飲食店業
  • タクシー業
  • その他不特定多数を相手とする事業

適格返還請求書の交付

返品や値引きがあった場合、適格返還請求書を交付する必要があります。

写しの保存義務

交付した適格請求書の写し(控え)を7年間保存する義務があります。電子データでの保存も可能です。

登録の取りやめと更新

登録の取りやめ

適格請求書発行事業者の登録は、「登録取消届出書」を提出することで取りやめることができます。

取りやめの効力発生:

  • 原則として、届出書を提出した日の属する課税期間の翌課税期間の初日

ただし、取りやめ後2年間は再登録できないため、慎重な判断が必要です。

登録の更新

適格請求書発行事業者の登録に有効期限はありません。一度登録すれば、取りやめの届出を出さない限り、登録は継続します。

まとめ:適格請求書発行事業者制度の理解が重要

適格請求書発行事業者制度は、インボイス制度の中核をなす仕組みです。課税事業者にとっては登録が実質的に必須となっており、免税事業者にとっては、登録して課税事業者になるか、免税事業者のままでいるかの重要な選択を迫られています。

BtoB取引が中心の事業者は登録のメリットが大きく、BtoC取引が中心の事業者は免税事業者のままでいる選択肢もあります。自社の取引形態、売上規模、事務処理能力などを総合的に判断し、最適な選択を行うことが重要です。

判断に迷う場合は、税理士など専門家に相談し、自社の状況に応じた適切なアドバイスを受けることをお勧めします。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な判断については、必ず最新の法令を確認し、税理士等の専門家にご相談ください。

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