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税務調査の流れと対応方法|税理士が教える準備と注意点
2025-11-06
- 税務実務
税務調査とは
税務調査とは、税務署が納税者の申告内容が正しいかどうかを確認するために行う調査です。帳簿書類や証憑(領収書、請求書など)をチェックし、申告漏れや誤りがないかを調査します。
税務調査は、全ての納税者に対して行われるわけではありませんが、一定の割合で実施されます。税務調査が入ることは、決して不正を疑われているわけではなく、適正な申告を確認するための通常の手続きです。
税務調査の目的
- 申告内容の正確性の確認
- 税法の適用が適切かの確認
- 不正や脱税の防止
- 納税者への税法の周知
税務調査の種類
- 任意調査:事前に通知があり、同意の上で行われる
- 強制調査(査察):裁判所の令状に基づき、強制的に行われる(悪質な脱税の場合)
本記事では、一般的な「任意調査」について解説します。
税務調査が入りやすい会社・個人
税務調査は、全ての納税者が対象ですが、以下のようなケースでは調査が入りやすい傾向があります。
調査が入りやすいケース
売上が急増した
前年と比べて売上が大幅に増加した場合、その理由を確認するために調査が入ることがあります。
利益率が業界平均と大きく異なる
同業他社と比べて、利益率が極端に高い、または低い場合、調査の対象になりやすいです。
申告内容に不審な点がある
売上と仕入のバランスが不自然、経費が異常に多いなど、申告内容に疑問がある場合、調査が入ることがあります。
過去に指摘を受けたことがある
過去の税務調査で多額の追徴課税を受けた場合、再度調査が入る可能性が高まります。
特定の業種
現金商売(飲食業、小売業、理美容業など)や、外注費が多い業種(建設業、IT業など)は、調査が入りやすいとされています。
長期間調査が入っていない
10年以上税務調査が入っていない場合、調査の対象になることがあります。
法人設立後3年目
法人設立後、3年目頃に税務調査が入ることが多いです。
無申告
確定申告をしていない場合、税務署が把握して調査に入ることがあります。
税務調査の流れ
税務調査は、以下の流れで進みます。
ステップ1:事前通知
税務署から電話で、税務調査を行う旨の連絡があります。税理士と顧問契約している場合、税理士に連絡が入ります。
通知内容
- 調査の対象となる税目(法人税、消費税など)
- 調査の対象期間(通常は過去3年分)
- 調査の日時
- 調査場所(通常は会社または事務所)
- 調査担当者の氏名
事前通知のタイミング
通常、調査日の1〜2週間前に通知があります。
事前通知がない場合
現金商売など、事前通知すると証拠隠滅の恐れがある場合、無予告で調査が入ることがあります(無予告調査)。
ステップ2:税務調査の準備
調査日までに、以下の準備を行います。
帳簿書類の準備
調査官が確認する帳簿書類を準備します。
準備する書類
- 総勘定元帳
- 仕訳帳
- 現金出納帳
- 預金通帳
- 売掛帳・買掛帳
- 請求書・領収書
- 契約書
- 給与台帳
- 株主総会議事録、取締役会議事録
- 定款
社内の整理
調査がスムーズに進むよう、社内を整理します。
整理すべきこと
- 書類の整理・ファイリング
- 不要な書類の片付け
- 応接スペースの確保
税理士との打ち合わせ
税理士と、想定される質問や注意点について打ち合わせを行います。
ステップ3:税務調査の実施
調査当日、調査官が会社を訪問し、調査を開始します。
初日の流れ
午前中
調査官の自己紹介の後、会社概要のヒアリングが行われます。
ヒアリング内容
- 事業内容
- 組織体制
- 売上の状況
- 仕入先・販売先
- 経理体制
- 給与の支払い方法
- 社長の経歴
午後
帳簿書類の確認が始まります。
確認される内容
- 売上の計上時期は適切か
- 仕入や経費の計上時期は適切か
- 架空経費はないか
- 交際費の処理は適切か
- 在庫の計上は適切か
- 給与と外注費の区分は適切か
2日目以降
引き続き、帳簿書類の確認が行われます。調査官が疑問に思った点について、質問されます。
調査期間
通常、2〜3日間です。規模が大きい会社や、問題が多い場合は、さらに長期間になることがあります。
ステップ4:調査結果の説明
調査が終了すると、調査官から調査結果の説明があります。
パターン1:申告是認(問題なし)
申告内容に問題がなかった場合、「申告是認」となり、税務調査は終了します。
パターン2:修正申告の提案
申告漏れや誤りが発見された場合、調査官から修正申告を行うよう提案されます。
パターン3:更正処分
修正申告に応じない場合、税務署が職権で更正処分を行います。
ステップ5:修正申告
調査官の指摘に納得した場合、修正申告を行います。
修正申告書の作成
税理士が修正申告書を作成し、税務署に提出します。
追徴税額の納付
修正申告により増加した税額(追徴税額)を納付します。
追徴税額の内訳
- 本税(元々納めるべきだった税額の不足分)
- 過少申告加算税または無申告加算税
- 延滞税
ステップ6:税務調査の終了
修正申告書の提出と追徴税額の納付が完了すると、税務調査は終了します。
税務調査での注意点
税務調査では、調査官への対応が重要です。適切な対応をすることで、調査をスムーズに進められます。
調査官への対応
質問には正直に答える
調査官の質問には、正直に答えることが基本です。嘘をつくと、信用を失い、調査が厳しくなります。
即答できない質問は保留にする
分からないことや、確認が必要なことは、その場で答えず、「確認してから回答します」と伝えます。
余計なことは言わない
聞かれたことだけに答え、余計な情報を提供しないようにします。
調査官と対立しない
調査官と対立すると、調査が長引いたり、厳しくなったりします。礼儀正しく、協力的な態度を心がけます。
税理士に任せる
税務の専門的な質問には、税理士に対応してもらいます。経営者が無理に答える必要はありません。
やってはいけないこと
書類を隠す
調査官から提示を求められた書類を隠すことは、違法です。調査が厳しくなり、重加算税が課される可能性があります。
書類を改ざんする
帳簿や証憑を改ざんすることは、犯罪です。絶対に行ってはいけません。
虚偽の説明をする
嘘の説明をすると、信用を失い、調査が厳しくなります。
調査官を妨害する
調査官の業務を妨害すると、罰則が課される可能性があります。
調査官からよくある質問
売上について
- 売上の計上基準は何ですか
- 締日と請求日、入金日を教えてください
- 期末の売掛金はいくらですか
- 売上の一部を除外していませんか
仕入・経費について
- 仕入先はどこですか
- 在庫の管理方法を教えてください
- この経費は何に使ったものですか
- 私的な経費を計上していませんか
交際費について
- この交際費の相手先は誰ですか
- 領収書の裏に参加者の名前を書いていますか
- 役員の個人的な飲食を経費にしていませんか
給与について
- 従業員は何名ですか
- 給与の支払い方法を教えてください
- 源泉徴収は適切に行っていますか
- 外注費と給与の区分は適切ですか
税務調査で指摘されやすい項目
税務調査では、以下の項目が指摘されやすいです。
売上の計上漏れ
期末の売上計上漏れ
決算日をまたぐ売上について、翌期に計上していないか確認されます。
例
3月決算の会社で、3月中に商品を納品したが、請求書の発行が4月になった場合、3月に売上計上すべきです。4月に計上していると、指摘されます。
売上除外
意図的に売上を申告しない行為です。非常に悪質とみなされ、重加算税が課されます。
経費の過大計上
架空経費
実際には支出していない経費を計上することです。重加算税の対象になります。
私的経費の計上
社長や役員の個人的な支出を会社の経費にすることです。
よくある私的経費
- 家族旅行の費用を研修旅行として計上
- 個人的な飲食を交際費として計上
- 自家用車のガソリン代を経費として計上
資本的支出を修繕費として計上
建物の価値を高める支出(資本的支出)を、修繕費として一括で経費にしていると、指摘されます。
在庫の過少計上
決算日時点の在庫を少なく計上することで、売上原価を過大にし、利益を圧縮する行為です。
交際費の処理ミス
交際費の損金算入限度額
中小企業(資本金1億円以下)は、年間800万円まで交際費を損金算入できます。それを超える部分は損金不算入です。
交際費と会議費の区分
1人あたり5,000円以下の飲食費は、会議費として処理でき、全額損金算入できます。5,000円を超える場合、交際費として処理します。
交際費の相手先が不明
領収書に相手先の記載がない場合、私的な飲食とみなされる可能性があります。領収書の裏に、相手先、参加者、目的を記載しておくことが重要です。
給与と外注費の区分
給与として認定される要件
以下の要件を満たす場合、給与として認定されます。
- 指揮監督を受けている
- 時間的拘束がある
- 場所的拘束がある
- 代替性がない(本人が業務を行う必要がある)
- 報酬が時間給・日給・月給である
外注費として処理していても、実質的に給与と認定されると、源泉徴収漏れを指摘されます。
税務調査での加算税と延滞税
税務調査で申告漏れが発見されると、本税に加えて、加算税と延滞税が課されます。
加算税
過少申告加算税
申告した税額が少なかった場合に課されます。
税率
- 追加で納める税額の10%
- 期限内申告税額を超える部分:15%
無申告加算税
申告期限までに申告しなかった場合に課されます。
税率
- 納付すべき税額の50万円まで:15%
- 50万円を超える部分:20%
重加算税
仮装・隠蔽など、悪質な行為があった場合に課されます。
税率
- 過少申告の場合:35%
- 無申告の場合:40%
重加算税が課されるケース
- 売上除外
- 架空経費の計上
- 帳簿の改ざん
- 二重帳簿の作成
延滞税
納付期限から実際の納付日までの日数に応じて、延滞税が課されます。
税率(2024年の場合)
- 納期限の翌日から2か月以内:年2.4%
- 納期限の翌日から2か月超:年8.7%
追徴税額の例
前提条件
- 申告漏れの所得:1,000万円
- 本税(法人税):約300万円
- 無申告
追徴税額
本税:300万円
無申告加算税:50万円 × 15% + 250万円 × 20% = 57.5万円
延滞税(1年後に納付):300万円 × 8.7% = 26.1万円
合計:383.6万円
税理士による税務調査対応のサポート
税務調査は、税理士のサポートを受けることで、スムーズに進められます。
税理士のサポート内容
事前準備
- 帳簿書類の確認
- 想定される質問の準備
- 問題点の洗い出しと対策
調査当日の立ち会い
- 調査官への対応
- 質問への回答のサポート
- 調査官との交渉
調査後のフォロー
- 指摘事項への対応
- 修正申告書の作成
- 追徴税額の計算
税理士に依頼するメリット
専門知識
税理士は税務の専門家として、調査官と対等に交渉できます。
経験
税務調査の経験が豊富な税理士であれば、調査の流れを熟知しており、適切な対応ができます。
精神的サポート
経営者にとって、税務調査は大きなストレスです。税理士がサポートすることで、安心して調査を受けられます。
追徴税額の最小化
税理士が適切に対応することで、追徴税額を最小限に抑えられる可能性があります。
税務調査対応の費用
顧問契約している場合
顧問料に含まれることが多いですが、別途費用が発生する場合もあります。
費用の目安
- 1日あたり5〜10万円
顧問契約していない場合
スポットで税理士に依頼することもできます。
費用の目安
- 調査立ち会い:1日あたり5〜10万円
- 修正申告書作成:10〜30万円
北九州での税務調査
北九州市内の企業も、全国と同様に税務調査の対象となります。
管轄税務署
小倉税務署
- 管轄地域:小倉北区、小倉南区、門司区
八幡税務署
- 管轄地域:八幡東区、八幡西区、戸畑区、若松区
税理士への相談
北九州市内で税務調査が入った場合、地域の事情に精通した税理士に相談することをお勧めします。
相談すべきタイミング
- 税務調査の通知を受けたらすぐに
- 調査日までに時間があれば、事前に相談
税理士の選び方
- 税務調査の立ち会い経験が豊富
- 地域の税務署の傾向を把握している
- 迅速に対応してくれる
まとめ
税務調査は、申告内容の正確性を確認するための通常の手続きです。事前通知を受けたら、帳簿書類を準備し、税理士と打ち合わせを行います。
調査当日は、調査官の質問に正直に答え、余計なことは言わず、分からないことは保留にします。税理士に立ち会ってもらうことで、適切な対応ができます。
売上の計上漏れ、経費の過大計上、在庫の過少計上、交際費の処理ミス、給与と外注費の区分など、指摘されやすい項目には特に注意が必要です。
北九州で税務調査が入った場合、税務調査対応の経験が豊富な税理士に早めに相談し、適切なサポートを受けることをお勧めします。適切な対応により、追徴税額を最小限に抑え、スムーズに調査を終了できます。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務調査への対応については、税理士にご相談ください。
