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法人税の所得税額控除とは?二重課税を防ぐ仕組みを分かりやすく解説
2025-11-04
- 法人税
- 税務実務
法人税の所得税額控除とは何か
法人税の所得税額控除とは、法人が受け取った利子や配当などに対して源泉徴収された所得税を、法人税額から差し引く制度です。これにより、同じ所得に対して所得税と法人税が二重に課税されることを防ぎます。
例えば、法人が銀行預金の利息1万円を受け取る場合、実際に入金されるのは源泉所得税(15.315%)が差し引かれた8,468円です。この源泉徴収された1,532円を法人税から控除することで、実質的な二重課税を回避します。
所得税額控除が適用される主な収入:
- 預金利息
- 公社債の利子
- 株式の配当金(一部)
- 貸付金の利子
なぜ所得税額控除が必要なのか
二重課税の防止
法人が受け取る利息や配当には、支払時に所得税が源泉徴収されます。しかし、法人の所得に対しては法人税が課されるため、源泉徴収された所得税を考慮しないと、同じ所得に対して二重に税金が課されることになります。
所得税額控除がない場合の例:
預金利息:10,000円
源泉所得税:1,532円(15.315%)
実際の入金:8,468円
法人税の課税所得に10,000円が含まれ、法人税(仮に23.2%):2,320円
合計税負担:1,532円 + 2,320円 = 3,852円(実効税率38.52%)
これでは過大な税負担となるため、源泉徴収された所得税を法人税から控除する必要があります。
国際的な二重課税防止との違い
所得税額控除は国内での二重課税防止を目的としています。一方、外国で課された税金に対しては「外国税額控除」という別の制度が適用されます。
所得税額控除の対象となる所得
利子所得
対象となる利子:
- 預貯金の利子
- 公社債の利子
- 貸付金の利子
- 社債の利子
源泉徴収税率:
- 所得税:15%
- 復興特別所得税:15% × 2.1% = 0.315%
- 合計:15.315%
配当所得
対象となる配当:
- 上場株式の配当
- 非上場株式の配当
- 投資信託の分配金
源泉徴収税率:
- 上場株式:15.315%(所得税15% + 復興特別所得税0.315%)
- 非上場株式:20.42%(所得税20% + 復興特別所得税0.42%)
ただし、配当については「受取配当等の益金不算入」という別の制度があり、一定割合が益金(収益)に算入されないため、実際の処理はより複雑です。
その他の所得
源泉徴収の対象となるその他の所得:
- 特許権等の使用料(10.21%)
- 原稿料・講演料(10.21%)
- 税理士・弁護士等への報酬(10.21%)
所得税額控除の計算方法
基本的な計算の流れ
所得税額控除の計算は以下の手順で行います:
ステップ1:当期中に源泉徴収された所得税の集計
預金利息の源泉所得税:50,000円
配当金の源泉所得税:30,000円
合計:80,000円
ステップ2:控除限度額の計算
控除限度額 = 法人税額 × 所得税額の対象となる所得 / 法人税の課税所得
ステップ3:控除額の決定
控除額 = 源泉所得税額と控除限度額のいずれか少ない方
具体的な計算例
前提条件:
- 法人税の課税所得:1,000万円
- 法人税額:200万円
- 預金利息(源泉徴収前):100万円
- 源泉徴収された所得税:15.315万円
計算:
- 控除限度額の計算
控除限度額 = 200万円 × 100万円 / 1,000万円 = 20万円
- 控除額の決定
源泉所得税額:15.315万円
控除限度額:20万円
→ 控除額 = 15.315万円(少ない方)
- 納付すべき法人税額
200万円 - 15.315万円 = 184.685万円
控除限度額を超える場合
源泉徴収された所得税が控除限度額を超える場合、超過部分は控除できず、還付もされません(損金にも算入できません)。
控除限度額超過の例:
源泉所得税額:25万円
控除限度額:20万円
控除額:20万円
控除できない金額:5万円(切り捨て)
このケースは稀ですが、法人税額が少ない場合や、多額の利子・配当収入がある場合に発生する可能性があります。
受取配当等の益金不算入との関係
二重課税排除の2つの制度
配当所得については、二重課税を排除するために2つの制度があります:
- 受取配当等の益金不算入 - 配当の一定割合を益金に算入しない
- 所得税額控除 - 源泉徴収された所得税を法人税から控除
負債利子控除の計算
受取配当等の益金不算入を適用する場合、関連する借入金の利子を控除する必要があります。
負債利子の計算式:
負債利子 = 配当等の支払義務確定日の総資産帳簿価額 × 負債利子割合 × 配当等の額 / 総資産帳簿価額
この計算は複雑なため、実務では税理士に依頼するのが一般的です。
完全子法人株式等の配当
100%子会社からの配当は、全額が益金不算入となります(負債利子控除は不要)。この場合、源泉徴収された所得税は所得税額控除の対象となります。
別表六(一)の記載方法
別表六(一)とは
「別表六(一)(所得税額の控除に関する明細書)」は、源泉徴収された所得税の控除を受けるために、法人税申告書に添付する明細書です。
記載すべき項目
主な記載項目:
- 所得の種類(利子、配当など)
- 支払者の名称
- 所得の金額
- 源泉徴収税額
- 控除を受ける税額
記載例
所得の種類:預金利息
支払者:○○銀行
所得金額:1,000,000円
源泉徴収税額:153,150円
控除税額:153,150円
複数の利子・配当がある場合は、それぞれを明細として記載します。
会計処理と仕訳
利息受取時の仕訳
預金利息10,000円を受け取り、所得税1,532円が源泉徴収された場合:
借方:普通預金 8,468円
借方:仮払法人税等 1,532円
貸方:受取利息 10,000円
仮払法人税等として処理した源泉所得税は、決算時に法人税額から控除します。
配当金受取時の仕訳
配当金100,000円を受け取り、所得税15,315円が源泉徴収された場合:
借方:普通預金 84,685円
借方:仮払法人税等 15,315円
貸方:受取配当金 100,000円
決算時の法人税計上仕訳
法人税額200万円、源泉所得税20万円の場合:
借方:法人税、住民税及び事業税 2,000,000円
貸方:仮払法人税等 200,000円
貸方:未払法人税等 1,800,000円
実務上の注意点とポイント
源泉徴収票の保管
所得税額控除を受けるためには、源泉徴収された事実を証明する書類(源泉徴収票、支払通知書など)を保管しておく必要があります。
利子・配当の計上時期
源泉徴収された所得税は、実際に入金された日ではなく、支払義務が確定した日の属する事業年度で控除します。
例:
- 配当の支払決議日:令和6年3月25日(決算日)
- 実際の入金日:令和6年4月20日
→ 令和6年3月期の申告で控除
復興特別所得税の取り扱い
平成25年1月1日以降、源泉徴収される所得税には復興特別所得税(所得税額の2.1%)が含まれています。この復興特別所得税も所得税額控除の対象となります。
中間申告での取り扱い
中間申告では、原則として所得税額控除は行いません。確定申告時にまとめて控除します。ただし、仮決算による中間申告の場合は、その時点までの源泉所得税を控除できます。
よくある誤りと対処法
控除を忘れるケース
小額の預金利息などは、控除を失念しがちです。定期的に預金通帳をチェックし、利息の源泉徴収税額を集計する習慣をつけましょう。
別表六(一)の記載漏れ
所得税額控除を受けるには、別表六(一)の提出が必須です。提出を忘れると、控除を受けられません。
仮払法人税等の計上漏れ
期中に仮払法人税等として計上していないと、決算時の仕訳が正しく行えません。利息・配当の入金時には必ず仮払法人税等を計上しましょう。
電子申告での処理
e-Taxでの別表六(一)の作成
e-Taxを利用する場合、別表六(一)も電子データで作成・提出します。会計ソフトの多くは、別表六(一)の自動作成機能を備えています。
データの取り込み
金融機関からの利息・配当の支払通知書をPDFで受け取る場合、データを会計ソフトに取り込める場合があります。手入力の手間を省き、入力ミスを防げます。
まとめ:所得税額控除で適正な税負担を実現
法人税の所得税額控除は、利子や配当に対する二重課税を防ぐための重要な制度です。源泉徴収された所得税を法人税から控除することで、法人の実質的な税負担を適正化します。
実務では、源泉徴収票の保管、仮払法人税等の適切な計上、別表六(一)の正確な記載が重要です。少額の預金利息でも、積み重なれば相応の控除額になるため、漏れなく控除を受けることが節税につながります。
計算や申告書の作成に不安がある場合は、税理士などの専門家に相談し、適切な処理を行いましょう。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務処理については、必ず最新の法令を確認し、税理士等の専門家にご相談ください。
