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法人税の外国税額控除とは?国際二重課税を防ぐ仕組みを分かりやすく解説

2025-11-03
  • 法人税
  • 国際税務

外国税額控除とは何か

外国税額控除とは、日本法人が外国で得た所得に対して外国で課された税金を、日本の法人税から差し引くことができる制度です。これにより、同じ所得に対して日本と外国の両方で税金が課される「国際的な二重課税」を防ぎます。

例えば、日本企業がアメリカで事業を行い、100万円の所得を得た場合、アメリカで法人税が課された上に、日本でも全世界所得として法人税が課されると、同じ100万円に対して二重に税金を払うことになります。外国税額控除は、この不合理を解消する制度です。

外国税額控除の対象となる主な税金:

  • 外国の法人税、所得税
  • 事業税、住民税(外国の地方税)
  • 外国での源泉徴収税

なぜ外国税額控除が必要なのか

国際的な二重課税の問題

日本は「全世界所得課税方式」を採用しており、日本法人の国内外すべての所得に対して法人税が課されます。一方、外国でも事業活動を行えば、その国の税法に基づいて課税されます。

外国税額控除がない場合の例:

外国での所得:1,000万円
外国での法人税(税率30%):300万円
日本での法人税(税率23.2%):232万円
合計税負担:532万円(実効税率53.2%)

これでは国際的な事業活動が著しく不利になるため、外国税額控除により調整が必要です。

租税条約との関係

多くの国との間で「租税条約」が締結されており、二重課税の排除方法が定められています。租税条約では、以下の2つの方法があります:

  1. 外国税額控除方式(Credit Method) - 居住地国で外国税額を控除
  2. 国外所得免除方式(Exemption Method) - 外国での所得を課税対象から除外

日本は主に外国税額控除方式を採用しています。

外国税額控除の対象となる税金

対象となる外国法人税

以下の要件を満たす外国の税金が控除対象となります:

要件:

  1. 外国の法令に基づいて課される税
  2. 所得を課税標準とする税
  3. 日本の法人税に相当する税

具体例:

  • アメリカの連邦法人税、州法人税
  • 中国の企業所得税
  • シンガポールの法人税
  • ドイツの法人税、営業税

対象とならない税金

以下のような税金は外国税額控除の対象外です:

  • 付加価値税(VAT)、消費税
  • 関税
  • 印紙税、登録免許税
  • 罰金、加算税
  • 外国の源泉徴収税で租税条約により軽減・免除できるもの

外国税額控除の計算方法

控除限度額の基本的な計算式

外国税額控除には限度額があり、無制限に控除できるわけではありません。

控除限度額の計算式:

控除限度額 = 法人税額 × 国外所得金額 / 全世界所得金額

この式により、外国所得の割合に応じた法人税額までが控除限度となります。

具体的な計算例

前提条件:

  • 全世界所得:5,000万円
  • 国外所得:1,000万円
  • 日本の法人税額:1,160万円(5,000万円 × 23.2%)
  • 外国で納付した税額:300万円

計算:

  1. 控除限度額の計算
控除限度額 = 1,160万円 × 1,000万円 / 5,000万円 = 232万円
  1. 控除額の決定
外国税額:300万円
控除限度額:232万円
→ 控除額 = 232万円(少ない方)
控除できない外国税額:68万円
  1. 納付すべき法人税額
1,160万円 - 232万円 = 928万円

控除余裕額と控除限度超過額

控除余裕額: 控除限度額 > 外国税額の場合、その差額を控除余裕額といいます。

控除限度超過額: 外国税額 > 控除限度額の場合、その差額を控除限度超過額といいます。

上記の例では、68万円が控除限度超過額となります。

控除限度超過額と控除余裕額の繰越し

3年間の繰越控除制度

控除しきれなかった外国税額(控除限度超過額)は、3年間繰り越して控除できます。同様に、控除余裕額も3年間繰り越せます。

繰越控除の仕組み:

1年目:

  • 外国税額:300万円
  • 控除限度額:232万円
  • 控除限度超過額:68万円(繰越可能)

2年目:

  • 外国税額:100万円
  • 控除限度額:250万円
  • 控除余裕額:150万円
  • 前年からの繰越超過額:68万円を控除

繰越の優先順位

複数年度の繰越額がある場合、古い年度のものから優先して使用します。

国外所得金額の計算方法

国外所得の範囲

国外所得金額とは、国外源泉所得の金額から、それに対応する損金の額を控除した金額です。

国外源泉所得の例:

  • 外国にある支店の事業所得
  • 外国法人からの配当
  • 外国不動産の賃貸収入
  • 外国での技術提供の対価(ロイヤリティ)

対応する損金の配賦

国外所得の計算では、それに対応する経費(損金)を適切に配賦する必要があります。

配賦方法:

  • 直接対応する経費:そのまま控除
  • 共通経費:合理的な基準で按分

例えば、本社の管理費は、売上高や人員数などの基準で国内外に按分します。

外国税額控除の申告手続き

必要な書類

外国税額控除を受けるためには、以下の書類を法人税申告書に添付します:

主要書類:

  1. 別表六(二) - 外国税額控除に関する明細書
  2. 別表六(二)付表一 - 控除限度額及び控除税額の計算に関する明細書
  3. 外国税額の納付を証明する書類 - 納税証明書、源泉徴収票など

別表六(二)の記載

別表六(二)には、以下の情報を記載します:

  • 国外所得金額の計算
  • 控除限度額の計算
  • 控除を受ける外国法人税の額
  • 繰越控除限度超過額・繰越控除余裕額

外国税額の納付を証明する書類

外国で納税した事実を証明するため、以下の書類が必要です:

  • 外国政府発行の納税証明書
  • 源泉徴収票(外国語の場合、翻訳添付が望ましい)
  • 税務申告書の控え

租税条約による軽減・免除との関係

租税条約の優先適用

日本が締結している租税条約により、外国での源泉徴収税率が軽減・免除される場合があります。

主な租税条約の軽減税率(配当の場合):

  • 日米租税条約:10%または免除
  • 日中租税条約:10%
  • 日英租税条約:10%または免除

租税条約の適用手続き

租税条約の適用を受けるには、外国の税務当局に「居住者証明書」を提出する必要があります。

手続きの流れ:

  1. 所轄税務署長に居住者証明書の交付申請
  2. 居住者証明書を外国の支払者に提出
  3. 軽減税率で源泉徴収

外国子会社からの配当の取り扱い

外国子会社配当益金不算入制度

外国子会社(持株割合25%以上)からの配当については、「外国子会社配当益金不算入制度」が適用され、配当の95%が益金不算入となります。

この場合、外国税額控除ではなく、益金不算入により二重課税が排除されます。

適用要件:

  • 配当の支払義務確定日に6か月以上継続保有
  • 持株割合25%以上

外国税額控除との選択

外国子会社配当については、益金不算入制度と外国税額控除のいずれか有利な方を選択できます。

一般的には益金不算入制度の方が有利なケースが多いですが、個別の状況により判断が必要です。

実務上の注意点とポイント

外貨建て取引の換算

外国税額は、原則として納付時の為替レートで円換算します。

換算レート:

  • 電信売買相場の仲値(TTM)
  • 納付日(または納付日前後の最も近い日)のレート

繰越額の管理

3年間繰り越せる控除限度超過額と控除余裕額は、別表で明細を管理し、失効しないよう注意が必要です。

タックスヘイブン対策税制との関係

外国子会社がタックスヘイブン(低税率国)に所在する場合、タックスヘイブン対策税制(外国子会社合算税制)が適用される可能性があります。この場合、合算された所得に対応する外国税額も控除対象となります。

国際取引における税務戦略

二重課税排除の最適化

国によって税率が異なるため、外国税額控除を最大限活用するには、以下の戦略が考えられます:

高税率国での所得:

  • 外国税額が控除限度額を超えやすい
  • 繰越控除を活用

低税率国での所得:

  • 控除余裕額が発生しやすい
  • 他の高税率国の繰越超過額と相殺

移転価格税制への対応

国際取引では、移転価格税制により、適正な取引価格(独立企業間価格)で取引する必要があります。移転価格の調整により外国での所得が増減すると、外国税額控除にも影響します。

まとめ:外国税額控除で国際二重課税を回避

法人税の外国税額控除は、グローバルに事業を展開する企業にとって不可欠な制度です。外国で課された税金を日本の法人税から控除することで、国際的な二重課税を防ぎ、企業の国際競争力を維持します。

控除限度額の計算、繰越制度の活用、租税条約との関係など、実務は複雑ですが、適切に活用することで税負担を最適化できます。国際税務は専門性が高いため、税理士など専門家のサポートを受けながら、適正な申告を行うことが重要です。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な国際税務については、必ず最新の法令・租税条約を確認し、税理士等の専門家にご相談ください。

現在弊社では、ZOOMを利用したオンラインによる面談を行っております。
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