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相続税の配偶者控除(配偶者の税額軽減)を完全解説!要件と注意点
2025-10-28
- 相続税
- 税務実務
相続税の配偶者控除(配偶者の税額軽減)とは
相続税における配偶者控除(正式名称:配偶者の税額軽減)とは、配偶者が相続した財産について、一定額まで相続税が課税されない制度です。配偶者の生活保障と、夫婦で築いた財産への課税を軽減する政策的配慮から設けられています。
配偶者の税額軽減の適用額:
配偶者が相続した財産のうち、以下のいずれか多い金額まで相続税が非課税になります:
- 1億6,000万円
- 配偶者の法定相続分相当額
この制度により、多くのケースで配偶者には相続税が課されません。
配偶者の税額軽減の計算方法
基本的な仕組み
配偶者の税額軽減は、相続税の総額を計算した後、配偶者が実際に相続した財産の割合に応じて税額を軽減する制度です。
計算の流れ:
- 相続税の総額を計算
- 各相続人の税額を按分
- 配偶者の税額から軽減額を控除
具体的な計算例
前提条件:
- 相続財産:2億円
- 相続人:配偶者、子2人
- 配偶者の相続分:1億円(50%)
- 子の相続分:各5,000万円
計算:
- 基礎控除額
3,000万円 + 600万円 × 3人 = 4,800万円
- 課税遺産総額
2億円 - 4,800万円 = 1億5,200万円
- 相続税の総額(法定相続分で按分して計算)
配偶者の法定相続分:1億5,200万円 × 1/2 = 7,600万円
→ 税額:7,600万円 × 30% - 700万円 = 1,580万円
子の法定相続分:各3,800万円
→ 税額:3,800万円 × 20% - 200万円 = 560万円(×2人)
相続税の総額:1,580万円 + 560万円 × 2 = 2,700万円
- 配偶者の実際の税額(実際の相続分で按分)
2,700万円 × 1億円 / 2億円 = 1,350万円
- 配偶者の税額軽減
配偶者が相続した財産:1億円
軽減額の上限:1億6,000万円
1億円 < 1億6,000万円
→ 1,350万円全額が軽減される
結果:
- 配偶者の納税額:0円
- 子の納税額:各675万円(合計1,350万円)
配偶者の税額軽減の適用要件
戸籍上の配偶者であること
対象となる配偶者:
- 法律上の婚姻関係にある配偶者のみ
- 相続開始時点で戸籍上の配偶者であること
対象外:
- 内縁の配偶者
- 事実婚のパートナー
- 離婚した元配偶者
婚姻期間の長短は問われません。婚姻届を提出した直後に相続が発生しても、適用を受けられます。
相続税の申告書を提出すること
配偶者の税額軽減を受けるには、相続税の申告書を提出することが必須です。
重要なポイント:
- 軽減により税額がゼロになる場合でも申告が必要
- 申告期限:相続開始を知った日の翌日から10か月以内
- 申告しないと軽減を受けられない
遺産分割が確定していること
申告期限までに遺産分割が確定していることが原則です。
未分割の場合:
- 申告期限までに未分割申告(軽減適用なし)
- 分割確定後に更正の請求
- 軽減の適用を受ける
未分割のまま3年を経過すると、軽減を受けられなくなる可能性があります(やむを得ない事情がある場合を除く)。
法定相続分相当額の考え方
法定相続分とは
法定相続分は、民法で定められた相続の割合です。
主なパターン:
配偶者と子の場合:
- 配偶者:1/2
- 子:1/2(子が複数の場合は均等に分ける)
配偶者と父母の場合:
- 配偶者:2/3
- 父母:1/3
配偶者と兄弟姉妹の場合:
- 配偶者:3/4
- 兄弟姉妹:1/4
法定相続分相当額が1億6,000万円を超える場合
具体例:
- 相続財産:4億円
- 相続人:配偶者と子2人
- 配偶者の法定相続分:2億円(4億円 × 1/2)
この場合、配偶者が2億円を相続しても、全額が非課税となります。
計算:
非課税額 = max(1億6,000万円, 2億円) = 2億円
配偶者の税額軽減を使う際の注意点
二次相続への影響
配偶者の税額軽減を最大限活用すると、一次相続(例:夫の相続)では税負担が軽くなりますが、二次相続(例:妻の相続)で子の税負担が重くなる可能性があります。
理由:
- 二次相続では配偶者控除が使えない
- 法定相続人が減り、基礎控除額が減少
- 一次相続で配偶者が相続した財産が二次相続の対象に
一次相続と二次相続のシミュレーション
前提条件:
- 夫の財産:2億円
- 妻の固有財産:なし
- 子:2人
パターン1:一次相続で妻が全額相続
一次相続(夫→妻・子):
妻が2億円相続 → 配偶者控除で税額ゼロ
合計税額:0円
二次相続(妻→子):
相続財産:2億円
基礎控除:3,000万円 + 600万円 × 2人 = 4,200万円
課税遺産:1億5,800万円
相続税額:約2,460万円
合計税負担:2,460万円
パターン2:一次相続で法定相続分で分割
一次相続(夫→妻・子):
妻:1億円相続 → 配偶者控除で税額ゼロ
子:各5,000万円相続 → 各約680万円
合計税額:約1,360万円
二次相続(妻→子):
相続財産:1億円
基礎控除:4,200万円
課税遺産:5,800万円
相続税額:約780万円
合計税負担:約2,140万円
このように、一次相続で配偶者がすべて相続するより、子も一定額相続した方が、トータルの税負担が軽減されることがあります。
申告手続きと必要書類
相続税申告書の提出
配偶者の税額軽減を受けるには、以下の書類を提出します:
必要書類:
- 相続税申告書(第1表~第15表のうち該当分)
- 配偶者の税額軽減の計算書(第5表)
- 戸籍謄本(被相続人と配偶者の関係を証明)
- 遺産分割協議書の写しまたは遺言書の写し
- 印鑑証明書(遺産分割協議書に押印したもの)
申告期限
申告期限: 相続開始を知った日の翌日から10か月以内
例: 令和6年3月1日に死亡 → 令和7年1月1日まで
申告先
被相続人の死亡時の住所地を管轄する税務署に提出します。
配偶者の税額軽減を適用できない場合
相続税の申告をしなかった場合
申告期限までに申告書を提出しなかった場合、配偶者の税額軽減は適用されず、本来の税額に加えて無申告加算税や延滞税が課される可能性があります。
隠蔽・仮装があった場合
相続財産を隠蔽したり、仮装したりした場合、その財産については配偶者の税額軽減が適用されません。
遺産分割の戦略
配偶者の年齢・健康状態を考慮
配偶者が高齢または健康状態が良くない場合、二次相続が近い将来発生する可能性があります。この場合、一次相続で子に多めに相続させることで、トータルの税負担を軽減できます。
配偶者の生活資金を確保
税負担の軽減だけでなく、配偶者の生活資金の確保も重要です。住居や生活に必要な預貯金は配偶者が相続し、その他の財産を子に相続させるバランスが求められます。
小規模宅地等の特例との併用
自宅を配偶者が相続する場合、小規模宅地等の特例(評価額を80%減額)と配偶者の税額軽減を併用できます。これにより、大幅な節税が可能です。
よくある質問と誤解
配偶者は常に相続税がかからないのか
配偶者が相続した財産が1億6,000万円または法定相続分以下であれば、相続税はかかりません。ただし、それを超える部分には相続税が課されます。
申告不要と思っていたが実は申告が必要だった
配偶者の税額軽減により税額がゼロになる場合でも、申告は必要です。申告しないと軽減を受けられません。
内縁の妻・夫は対象外
戸籍上の婚姻関係がない場合、配偶者の税額軽減は適用されません。相続権もないため、遺言がなければ財産を受け取れません。
税理士への相談の重要性
配偶者の税額軽減は、一見すると「配偶者が相続すれば税金がかからない」というシンプルな制度に見えますが、二次相続まで考慮した総合的な判断が必要です。
税理士に相談すべきケース:
- 相続財産が1億円以上
- 不動産が多い
- 二次相続が近い将来発生する可能性が高い
- 相続人間で意見が分かれている
税理士は、一次相続と二次相続をシミュレーションし、最適な遺産分割の提案ができます。
まとめ:配偶者の税額軽減は強力だが、二次相続も見据えた判断を
相続税の配偶者の税額軽減は、配偶者が相続した財産のうち1億6,000万円または法定相続分相当額のいずれか多い金額まで非課税となる強力な制度です。
ただし、一次相続で配偶者がすべて相続すると、二次相続での税負担が重くなる可能性があります。配偶者の年齢、健康状態、固有財産の有無などを考慮し、一次相続と二次相続のトータルで税負担を最小化する遺産分割が重要です。
配偶者の税額軽減を受けるには、税額がゼロになる場合でも相続税の申告が必須です。申告期限を守り、適切な手続きを行いましょう。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な相続税の計算や遺産分割については、税理士等の専門家にご相談ください。
