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配偶者が相続する場合の相続税率は?税額軽減で実質ゼロになる仕組み
2025-10-26
- 相続税
- 配偶者控除
配偶者が相続しても税率は同じ
配偶者が相続する場合でも、相続税の税率そのものは他の相続人と同じです。相続税率は10%~55%の累進課税で、相続する財産の金額により決まります。
ただし、配偶者には「配偶者の税額軽減」という強力な特例があり、一定額まで相続税が実質的にゼロになります。このため、「配偶者は相続税がかからない」と誤解されることがありますが、正確には税額軽減により課税されないということです。
重要なポイント:
- 税率は配偶者も他の相続人も同じ
- 配偶者の税額軽減により、1億6,000万円または法定相続分まで非課税
- 軽減を超える部分には通常の税率で課税
相続税率の仕組み
累進税率の構造
相続税は、相続する財産が多いほど税率が上がる累進課税です。
相続税の速算表:
課税遺産額 税率 控除額
─────────────────────────────
1,000万円以下 10% -
3,000万円以下 15% 50万円
5,000万円以下 20% 200万円
1億円以下 30% 700万円
2億円以下 40% 1,700万円
3億円以下 45% 2,700万円
6億円以下 50% 4,200万円
6億円超 55% 7,200万円
税率の適用方法
相続税の計算では、まず法定相続分で財産を分けたと仮定して各人の税額を計算し、それを合計して「相続税の総額」を算出します。その後、実際の相続割合で按分します。
計算の流れ:
- 相続財産総額から基礎控除を差し引く
- 法定相続分で按分(仮の計算)
- 各人の税額を計算し、相続税の総額を算出
- 実際の相続割合で総額を按分
- 配偶者は税額軽減を適用
配偶者の税額軽減の仕組み
非課税となる金額
配偶者が相続した財産のうち、以下のいずれか多い金額まで相続税が非課税になります:
- 1億6,000万円
- 配偶者の法定相続分相当額
具体例:
ケース1:相続財産1億円、配偶者と子2人
- 配偶者の法定相続分:5,000万円
- 非課税額:max(1億6,000万円, 5,000万円) = 1億6,000万円
- 配偶者が1億円全額を相続しても税額ゼロ
ケース2:相続財産5億円、配偶者と子2人
- 配偶者の法定相続分:2億5,000万円
- 非課税額:max(1億6,000万円, 2億5,000万円) = 2億5,000万円
- 配偶者が2億5,000万円まで相続すれば税額ゼロ
税額軽減を超える部分の課税
配偶者が税額軽減の上限を超えて相続した場合、超過部分には通常の税率で相続税が課されます。
例:
- 相続財産:5億円
- 配偶者が3億円相続(法定相続分2億5,000万円を超過)
- 非課税:2億5,000万円
- 課税対象:5,000万円
- この5,000万円部分に相続税が課される
配偶者が相続する場合の税額計算例
例1:配偶者が法定相続分を相続する場合
前提条件:
- 相続財産:2億円
- 相続人:配偶者、子2人
- 配偶者の相続分:1億円(法定相続分)
計算:
- 基礎控除
3,000万円 + 600万円 × 3人 = 4,800万円
- 課税遺産総額
2億円 - 4,800万円 = 1億5,200万円
- 相続税の総額(法定相続分で按分)
配偶者:1億5,200万円 × 1/2 = 7,600万円
→ 7,600万円 × 30% - 700万円 = 1,580万円
子:各3,800万円
→ 3,800万円 × 20% - 200万円 = 560万円(×2人)
相続税の総額:1,580万円 + 560万円 × 2 = 2,700万円
- 実際の相続割合で按分
配偶者:2,700万円 × 1億円 / 2億円 = 1,350万円
子:各675万円
- 配偶者の税額軽減
配偶者が相続した財産:1億円
非課税枠:1億6,000万円
1億円 < 1億6,000万円
→ 配偶者の税額1,350万円が全額軽減
結果:
- 配偶者の納税額:0円
- 子の納税額:各675万円(合計1,350万円)
例2:配偶者が全額を相続する場合
前提条件:
- 相続財産:2億円
- 相続人:配偶者、子2人
- 配偶者の相続分:2億円(全額)
計算:
相続税の総額は2,700万円(上記と同じ)
実際の相続割合で按分:
配偶者:2,700万円 × 2億円 / 2億円 = 2,700万円
子:0円
配偶者の税額軽減:
配偶者が相続した財産:2億円
非課税枠:1億6,000万円
2億円 > 1億6,000万円
→ 1億6,000万円を超える部分(4,000万円)は課税対象
ただし、配偶者の税額2,700万円のうち、1億6,000万円分に対応する税額は:
2,700万円 × 1億6,000万円 / 2億円 = 2,160万円
結果:
- 配偶者の納税額:540万円(2,700万円 - 2,160万円)
- 子の納税額:0円
例3:配偶者が法定相続分を超えて相続する場合
前提条件:
- 相続財産:5億円
- 相続人:配偶者、子2人
- 配偶者の相続分:3億円(法定相続分2億5,000万円を超過)
計算(概算):
- 課税遺産総額:4億5,200万円
- 相続税の総額:約1億5,210万円
- 配偶者の按分税額:約9,126万円
- 配偶者の法定相続分相当額:2億5,000万円
- 法定相続分に対応する税額:約7,605万円
結果:
- 配偶者の納税額:約1,521万円(9,126万円 - 7,605万円)
- 子の納税額:合計約6,084万円
配偶者が相続する際の最適な戦略
一次相続と二次相続のバランス
配偶者が多く相続すると一次相続の税額は減りますが、二次相続で子の税負担が重くなります。
一次相続で配偶者が全額相続した場合:
- 一次相続:配偶者の税額軽減で税額ゼロ
- 二次相続:配偶者の財産すべてが課税対象
- 法定相続人が減り基礎控除も減少
一次相続で法定相続分で分割した場合:
- 一次相続:配偶者は税額軽減でゼロ、子は課税
- 二次相続:配偶者が相続した分のみが課税対象
- トータルの税負担が軽くなることが多い
配偶者の年齢・健康状態を考慮
配偶者が高齢または健康状態が良くない場合:
- 二次相続が近い将来発生する可能性が高い
- 一次相続で子に多めに相続させることを検討
配偶者が若く健康な場合:
- 配偶者の生活資金を確保することを優先
- 配偶者の税額軽減を活用して税負担を軽減
配偶者の固有財産の有無
配偶者に固有の財産が多い場合:
- 二次相続での税負担が重くなる
- 一次相続では子に多めに相続させる
配偶者に固有の財産がほとんどない場合:
- 配偶者の生活資金確保を優先
- 配偶者の税額軽減を最大限活用
配偶者が相続税を支払うケース
税額軽減を超えて相続した場合
配偶者が1億6,000万円または法定相続分を超えて相続した場合、超過部分に相続税が課されます。
相続税の申告をしなかった場合
配偶者の税額軽減を受けるには、相続税の申告が必須です。申告しなければ、軽減を受けられず、本来の税額に加えて無申告加算税や延滞税が課される可能性があります。
遺産分割が未確定の場合
申告期限(相続開始から10か月)までに遺産分割が確定していない場合、一旦は税額軽減なしで申告し、分割確定後に更正の請求を行います。
配偶者以外の相続人への影響
配偶者の相続割合と他の相続人の税額
配偶者が多く相続すると、配偶者の税額は軽減されますが、相続税の総額は変わりません。配偶者が相続しなかった分を他の相続人が負担することになります。
例:
- 相続税の総額:2,700万円
- 配偶者が全額相続:配偶者0円、子の負担はなし(配偶者が後で子に贈与する場合を除く)
- 法定相続分で分割:配偶者0円、子の負担1,350万円
子の税率への影響
配偶者が相続しない分を子が相続すると、子の相続額が増え、適用される税率が上がる可能性があります。
実務での注意点
申告期限の厳守
配偶者の税額軽減を受けるには、税額がゼロになる場合でも相続税の申告が必須です。申告期限は相続開始を知った日の翌日から10か月以内です。
遺産分割協議の重要性
配偶者がどれだけ相続するかは、遺産分割協議で決定します。税負担だけでなく、配偶者の生活資金、他の相続人の生活状況なども総合的に考慮して決定すべきです。
税理士への相談
一次相続と二次相続をシミュレーションし、最適な遺産分割を提案できるのは税理士の専門領域です。相続財産が多い場合や不動産が含まれる場合は、必ず税理士に相談しましょう。
まとめ:配偶者の税率は同じだが、税額軽減で実質的に非課税
配偶者が相続する場合の相続税率は、他の相続人と同じ10%~55%の累進課税です。ただし、配偶者の税額軽減により、1億6,000万円または法定相続分のいずれか多い金額まで相続税が非課税となります。
配偶者が税額軽減の範囲内で相続すれば相続税はかかりませんが、一次相続で配偶者がすべて相続すると、二次相続での税負担が重くなる可能性があります。配偶者の年齢、健康状態、固有財産の有無などを考慮し、一次相続と二次相続のトータルで税負担を最小化する遺産分割が重要です。
配偶者の税額軽減を受けるには、相続税の申告が必須です。税額がゼロになる場合でも、必ず申告期限内に申告を行いましょう。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な相続税の計算や遺産分割については、税理士等の専門家にご相談ください。
