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相続税の基礎控除と配偶者控除の違いとは?併用方法と計算例を解説
2025-10-24
- 相続税
- 基礎控除
- 配偶者控除
基礎控除と配偶者控除は別物
相続税における基礎控除と配偶者控除(正式名称:配偶者の税額軽減)は、名前は似ていますがまったく別の制度です。適用のタイミングや効果が異なり、両方を併用することで大きな節税効果が得られます。
基礎控除:
- すべての相続人に適用される
- 相続財産から差し引く(所得控除的な性質)
- 「3,000万円 + 600万円 × 法定相続人の数」
- 申告不要(基礎控除以下の場合)
配偶者控除(配偶者の税額軽減):
- 配偶者のみに適用される
- 計算された税額から差し引く(税額控除)
- 1億6,000万円または法定相続分まで非課税
- 申告必須(税額がゼロになる場合でも)
基礎控除の仕組み
基礎控除額の計算
基礎控除額 = 3,000万円 + 600万円 × 法定相続人の数
例:
- 配偶者と子2人(法定相続人3人)の場合
- 基礎控除額 = 3,000万円 + 600万円 × 3人 = 4,800万円
基礎控除の適用順序
基礎控除は、相続税の計算の最初の段階で適用されます。
計算の流れ:
- 相続財産総額を算出
- 基礎控除を差し引く ← ここで基礎控除適用
- 課税遺産総額を法定相続分で按分
- 各人の税額を計算し、相続税の総額を算出
- 実際の相続割合で総額を按分
- 配偶者の税額軽減を適用 ← ここで配偶者控除適用
基礎控除の効果
基礎控除は、すべての相続人の税負担を軽減します。
例:
- 相続財産:8,000万円
- 基礎控除:4,800万円
- 課税遺産総額:3,200万円
この3,200万円に対してのみ相続税が課されます。
配偶者控除(配偶者の税額軽減)の仕組み
配偶者控除の適用額
配偶者が相続した財産のうち、以下のいずれか多い金額まで相続税が非課税になります:
- 1億6,000万円
- 配偶者の法定相続分相当額
配偶者控除の適用順序
配偶者控除は、相続税を計算した後に、配偶者の税額から差し引きます。
配偶者控除の効果
配偶者だけの税負担を軽減します(ゼロにすることが多い)。
例:
- 配偶者の計算上の税額:1,000万円
- 配偶者が相続した財産:8,000万円
8,000万円 < 1億6,000万円 → 配偶者の税額1,000万円が全額軽減され、納税額ゼロ
基礎控除と配偶者控除の併用計算例
例1:配偶者と子2人の標準的なケース
前提条件:
- 相続財産:1億円
- 相続人:配偶者、子2人
- 配偶者の相続分:5,000万円(法定相続分)
- 子の相続分:各2,500万円
計算:
- 基礎控除
3,000万円 + 600万円 × 3人 = 4,800万円
- 課税遺産総額
1億円 - 4,800万円 = 5,200万円
- 相続税の総額(法定相続分で按分して計算)
配偶者:5,200万円 × 1/2 = 2,600万円
→ 2,600万円 × 15% - 50万円 = 340万円
子:各1,300万円
→ 1,300万円 × 15% - 50万円 = 145万円(×2人)
相続税の総額:340万円 + 145万円 × 2 = 630万円
- 実際の相続割合で按分
配偶者:630万円 × 5,000万円 / 1億円 = 315万円
子:各157.5万円
- 配偶者の税額軽減
配偶者が相続した財産:5,000万円
非課税枠:max(1億6,000万円, 5,000万円) = 1億6,000万円
5,000万円 < 1億6,000万円
→ 配偶者の税額315万円が全額軽減
結果:
- 配偶者の納税額:0円(基礎控除 + 配偶者控除の効果)
- 子の納税額:各157.5万円(合計315万円)
- 家族全体の税負担:315万円
例2:配偶者が全額相続するケース
前提条件:
- 相続財産:1億円
- 相続人:配偶者、子2人
- 配偶者の相続分:1億円(全額)
計算:
課税遺産総額:5,200万円(上記と同じ) 相続税の総額:630万円(上記と同じ)
実際の相続割合で按分:
配偶者:630万円 × 1億円 / 1億円 = 630万円
子:0円
配偶者の税額軽減:
配偶者が相続した財産:1億円
非課税枠:1億6,000万円
1億円 < 1億6,000万円
→ 配偶者の税額630万円が全額軽減
結果:
- 配偶者の納税額:0円
- 子の納税額:0円
- 家族全体の税負担:0円
一次相続では税負担ゼロですが、二次相続で子の税負担が重くなる可能性があります。
基礎控除と配偶者控除の適用要件の違い
基礎控除の適用要件
要件:
- 特になし(自動的に適用)
- 相続財産が基礎控除以下なら申告不要
対象者:
- すべての相続人
配偶者控除の適用要件
要件:
- 戸籍上の配偶者であること
- 相続税の申告書を提出すること(必須)
- 遺産分割が確定していること(原則)
対象者:
- 配偶者のみ
重要な違い: 配偶者控除を受けるには、税額がゼロになる場合でも申告が必須です。基礎控除のみで相続税がかからない場合は申告不要ですが、配偶者控除を適用する場合は必ず申告が必要です。
申告が必要なケースと不要なケース
申告不要なケース
ケース1:基礎控除以下
- 相続財産:4,000万円
- 基礎控除:4,800万円(法定相続人3人)
- 4,000万円 < 4,800万円
- 申告不要
申告が必要なケース
ケース2:基礎控除を超えるが、配偶者控除で税額ゼロ
- 相続財産:1億円
- 基礎控除:4,800万円
- 配偶者が全額相続
- 配偶者控除で税額ゼロ
- 申告必須(配偶者控除を受けるため)
ケース3:基礎控除を超え、一部の相続人に納税義務
- 相続財産:1億円
- 基礎控除:4,800万円
- 配偶者5,000万円、子各2,500万円相続
- 配偶者は配偶者控除で税額ゼロ、子に納税義務
- 申告必須
ケース4:小規模宅地等の特例を適用
- 特例適用前:6,000万円
- 基礎控除:4,800万円
- 特例適用後:3,000万円(基礎控除以下)
- 申告必須(特例を受けるため)
基礎控除と配偶者控除を最大限活用する戦略
パターン1:一次相続で配偶者が全額相続
メリット:
- 一次相続の税負担:ゼロ
- 手続きが簡単
デメリット:
- 二次相続で子の税負担が重くなる
- 法定相続人が減り、基礎控除も減少
適しているケース:
- 配偶者の生活資金確保が最優先
- 配偶者に固有の財産がほとんどない
- 配偶者が若く、二次相続が遠い将来
パターン2:一次相続で法定相続分で分割
メリット:
- 配偶者は配偶者控除で税額ゼロ
- 二次相続での税負担を分散
- トータルの税負担が軽くなることが多い
デメリット:
- 一次相続で子に納税義務が発生する
- 納税資金の確保が必要
適しているケース:
- 二次相続が近い将来発生する可能性がある
- 配偶者に固有の財産が多い
- 子に納税資金がある
パターン3:基礎控除と配偶者控除を両立
例:
- 相続財産:6,000万円
- 配偶者:2,000万円相続
- 子:各2,000万円相続
計算:
基礎控除:4,800万円
課税遺産総額:1,200万円
相続税の総額:約120万円
配偶者の税額:約40万円 → 配偶者控除で0円
子の税額:各約40万円
家族全体の税負担:約80万円
配偶者の生活資金を確保しつつ、子にも相続させることで、二次相続への備えも考慮したバランスの取れた分割です。
二次相続を見据えたシミュレーション
一次相続で配偶者が全額相続した場合
一次相続:
- 夫の財産:1億円
- 配偶者が全額相続
- 税負担:0円(基礎控除 + 配偶者控除)
二次相続:
- 妻の財産:1億円(夫から相続した分)
- 相続人:子2人のみ
- 基礎控除:3,000万円 + 600万円 × 2人 = 4,200万円
- 課税遺産総額:5,800万円
- 相続税:約770万円
トータル税負担:770万円
一次相続で法定相続分で分割した場合
一次相続:
- 夫の財産:1億円
- 配偶者5,000万円、子各2,500万円相続
- 税負担:約315万円(配偶者0円、子各157.5万円)
二次相続:
- 妻の財産:5,000万円(夫から相続した分)
- 相続人:子2人
- 基礎控除:4,200万円
- 課税遺産総額:800万円
- 相続税:約80万円
トータル税負担:約395万円(315万円 + 80万円)
法定相続分で分割した方が、トータルで約375万円の節税になります。
実務での注意点
申告期限の厳守
配偶者控除を受けるには、相続開始から10か月以内に申告が必須です。期限を過ぎると配偶者控除を受けられなくなります。
遺産分割協議の重要性
配偶者控除を受けるには、申告期限までに遺産分割が確定している必要があります(未分割の場合は特例あり)。
税理士への相談
一次相続と二次相続をシミュレーションし、最適な遺産分割を提案できるのは税理士の専門領域です。複数のパターンを比較検討し、家族にとって最適な選択を行いましょう。
まとめ:基礎控除と配偶者控除を理解し、最適な遺産分割を
相続税の基礎控除(3,000万円 + 600万円 × 法定相続人の数)は、すべての相続人に自動的に適用されます。一方、配偶者控除(1億6,000万円または法定相続分まで非課税)は、配偶者のみが相続税の申告を行うことで受けられる特例です。
基礎控除により相続財産が一定額まで非課税となり、さらに配偶者控除により配偶者の税負担が大幅に軽減されます。両方を併用することで、多くのケースで配偶者の納税額をゼロにできます。
ただし、一次相続で配偶者がすべて相続すると、二次相続での税負担が重くなります。配偶者の年齢、健康状態、固有財産の有無などを考慮し、一次相続と二次相続のトータルで税負担を最小化する遺産分割が重要です。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な相続税の計算や遺産分割については、税理士等の専門家にご相談ください。
