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相続放棄すると基礎控除はどうなる?法定相続人の数え方と税額への影響
2025-10-23
- 相続税
- 基礎控除
- 相続放棄
相続放棄しても基礎控除の人数に含まれる
相続放棄をした人がいても、相続税の基礎控除額の計算では、相続放棄をした人も法定相続人の数に含めます。これは相続税法で明確に定められています。
基礎控除額の計算式:
基礎控除額 = 3,000万円 + 600万円 × 法定相続人の数
この「法定相続人の数」には、相続放棄をした人も含めます。
具体例:
- 相続人:配偶者、子3人
- 子1人が相続放棄
基礎控除額の計算:
3,000万円 + 600万円 × 4人 = 5,400万円
相続放棄した子1人も含めて4人でカウントします。
なぜ相続放棄した人も人数に含めるのか
税負担の公平性を保つため
もし相続放棄した人を法定相続人の数から除外すると、相続放棄により基礎控除額が減少し、残りの相続人の税負担が重くなってしまいます。これは不公平なため、相続放棄した人も人数に含めるルールになっています。
例:相続放棄した人を除外した場合(仮定)
- 当初の法定相続人:4人
- 1人が相続放棄
- 基礎控除:3,000万円 + 600万円 × 3人 = 4,800万円(600万円減少)
→ 残りの相続人の税負担が増加(不公平)
実際のルール
相続放棄した人も法定相続人の数に含めることで、基礎控除額は変わらず、残りの相続人の税負担は増加しません。
相続放棄とは
相続放棄の意味
相続放棄とは、相続人が被相続人の財産(プラスの財産とマイナスの財産の両方)を一切相続しないと宣言する手続きです。
効果:
- 相続放棄をした人は、最初から相続人ではなかったことになる
- プラスの財産も、マイナスの財産(借金等)も相続しない
- 一度放棄すると撤回できない
相続放棄の手続き
手続き:
- 家庭裁判所に「相続放棄申述書」を提出
- 相続開始を知った日から3か月以内
- 受理されると「相続放棄申述受理証明書」が交付される
提出先: 被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所
相続放棄の理由
主な理由:
- 被相続人に多額の借金がある
- 相続争いに巻き込まれたくない
- 他の相続人に財産を渡したい
- 事業の承継をスムーズにしたい
相続放棄がある場合の基礎控除計算例
例1:子1人が相続放棄
前提条件:
- 相続財産:8,000万円
- 相続人:配偶者、子3人
- 子1人が相続放棄
基礎控除額:
3,000万円 + 600万円 × 4人 = 5,400万円
(相続放棄した子も含めて4人)
課税遺産総額:
8,000万円 - 5,400万円 = 2,600万円
実際に相続するのは:
- 配偶者と子2人(計3人)
この3人で2,600万円を分割します。
例2:配偶者が相続放棄
前提条件:
- 相続財産:1億円
- 相続人:配偶者、子2人
- 配偶者が相続放棄
基礎控除額:
3,000万円 + 600万円 × 3人 = 4,800万円
(相続放棄した配偶者も含めて3人)
課税遺産総額:
1億円 - 4,800万円 = 5,200万円
実際に相続するのは:
- 子2人のみ
注意点: 配偶者が相続放棄すると、配偶者の税額軽減(1億6,000万円まで非課税)を受けられません。税負担が大幅に増加する可能性があります。
例3:全員が相続放棄
前提条件:
- 第1順位相続人(配偶者と子)が全員相続放棄
- 第2順位相続人(父母)が相続人となる
基礎控除額の計算:
法定相続人 = 放棄がなければ相続人となっていた人の数
= 配偶者 + 子の人数
相続放棄により第2順位の父母が相続人となっても、基礎控除額の計算では第1順位の人数を使います。
相続放棄と相続税申告の関係
相続放棄した人は申告不要
相続放棄した人は、相続人ではないため、相続税の申告・納税義務はありません。
申告が必要な人:
- 実際に財産を相続した人のみ
相続放棄申述受理証明書の提出
相続税申告において、相続放棄があった事実を証明するため、「相続放棄申述受理証明書」を添付します。
申告期限
相続放棄があっても、相続税の申告期限は変わりません。
申告期限: 相続開始を知った日の翌日から10か月以内
相続放棄による税額への影響
基礎控除額は変わらない
前述の通り、相続放棄した人も法定相続人の数に含めるため、基礎控除額は変わりません。
相続税の総額の計算
相続税の総額を計算する際、法定相続分で按分する段階でも、相続放棄した人を含めて計算します。
計算手順:
- 課税遺産総額を算出(基礎控除後)
- 相続放棄がなかったものとして法定相続分で按分
- 各人の税額を計算し、相続税の総額を算出
- 実際に相続した人の相続割合で総額を按分
実際の税額の按分
相続税の総額を、実際に相続した人の相続割合で按分します。
例:
- 相続税の総額:500万円
- 実際の相続:配偶者6,000万円、子A 2,000万円、子B 2,000万円
- 子Cは相続放棄
按分:
配偶者:500万円 × 6,000万円 / 1億円 = 300万円
子A:500万円 × 2,000万円 / 1億円 = 100万円
子B:500万円 × 2,000万円 / 1億円 = 100万円
相続放棄した子Cの税額はゼロです。
相続放棄のメリットとデメリット
メリット
1. 借金を相続しなくて済む
- 被相続人に多額の借金がある場合、相続放棄により借金を負担しなくて済む
2. 相続争いを避けられる
- 相続人間の争いに巻き込まれたくない場合
3. 他の相続人への配慮
- 事業承継をスムーズにするため、特定の相続人に財産を集中させたい場合
4. 相続税の納税義務がなくなる
- 相続放棄した人は相続税を払う必要がない
デメリット
1. プラスの財産も相続できない
- 借金を回避したくて相続放棄すると、プラスの財産も一切相続できない
2. 撤回できない
- 一度相続放棄すると、後から取り消すことはできない
3. 配偶者控除等が使えなくなる
- 配偶者が相続放棄すると、配偶者の税額軽減を受けられず、税負担が増加する可能性
4. 後順位の相続人に影響
- 第1順位の相続人が全員相続放棄すると、第2順位(父母)、第3順位(兄弟姉妹)に相続権が移る
相続放棄以外の選択肢
限定承認
限定承認とは、プラスの財産の範囲内でマイナスの財産(借金等)を相続するという選択です。
特徴:
- プラスの財産が残れば相続できる
- マイナスの財産がプラスの財産を上回っても、超過分は負担しない
- 相続人全員で共同して手続きが必要
- 手続きが複雑
遺産分割協議による調整
相続放棄せずに、遺産分割協議で「財産を相続しない」と決めることもできます。
違い:
- 相続放棄:法的に相続人ではなくなる
- 遺産分割協議:相続人ではあるが、財産を取得しない
遺産分割協議の方が有利な場合:
- 配偶者控除を活用したい
- 小規模宅地等の特例を活用したい
- 借金がない場合
相続放棄を検討すべきケース
ケース1:明らかに債務超過
状況:
- プラスの財産:1,000万円
- マイナスの財産(借金):5,000万円
- 債務超過:4,000万円
対応: 相続放棄を検討すべきです。相続すると4,000万円の借金を負担することになります。
ケース2:事業承継のため
状況:
- 被相続人が経営していた会社の株式を長男に集中させたい
- 他の兄弟は相続放棄
対応: 事業承継をスムーズにするため、相続放棄は有効な手段です。ただし、代償金の支払いなど、他の方法も検討すべきです。
ケース3:相続争いを避けたい
状況:
- 相続人間の関係が悪く、争いが予想される
- 関わりたくない
対応: 相続放棄により、相続争いから離脱できます。
相続放棄の注意点
相続財産の処分禁止
相続放棄を予定している場合、相続財産を処分してはいけません。処分すると、相続を承認したとみなされ(法定単純承認)、相続放棄できなくなります。
処分に該当する行為:
- 預金の引き出し・使用
- 不動産の売却
- 相続財産の贈与
処分に該当しない行為:
- 葬儀費用の支払い(常識的な範囲)
- 被相続人の債務の弁済(自己の財産から)
相続放棄の期限
相続放棄は、相続開始を知った日から3か月以内に家庭裁判所に申述する必要があります。この期間を「熟慮期間」といいます。
期間の延長: 熟慮期間内に判断できない場合、家庭裁判所に期間延長を申し立てることができます。
後順位相続人への配慮
第1順位の相続人が全員相続放棄すると、第2順位(父母)、第3順位(兄弟姉妹)に相続権が移ります。
注意: 後順位の相続人が借金を相続することになる可能性があるため、事前に連絡・相談することが望ましいです。
まとめ:相続放棄しても基礎控除の人数に含まれる
相続放棄をした人も、相続税の基礎控除額の計算では法定相続人の数に含めます。これにより、相続放棄によって基礎控除額が減少することはなく、残りの相続人の税負担は増加しません。
相続放棄は、借金を回避する手段として有効ですが、プラスの財産も相続できなくなるため、慎重な判断が必要です。相続財産の内容を把握し、限定承認や遺産分割協議による調整など、他の選択肢も含めて検討しましょう。
相続放棄を検討する場合は、相続開始から3か月以内という期限があるため、早めに弁護士や税理士に相談することをお勧めします。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な相続放棄の手続きや相続税の計算については、弁護士や税理士等の専門家にご相談ください。
