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給与計算を業務委託するメリットとは?費用相場・選び方・注意点を解説
2025-10-18
- 経理
- 税務実務
給与計算の業務委託とは
給与計算の業務委託とは、従業員の給与計算業務を外部の専門家や代行会社に任せることです。社会保険労務士(社労士)や給与計算代行会社が主な委託先となります。
委託できる主な業務:
- 毎月の給与計算
- 賞与計算
- 年末調整
- 社会保険の手続き(資格取得・喪失、算定基礎届など)
- 住民税の納付
- 源泉徴収票の作成
多くの中小企業が、給与計算の正確性向上やバックオフィス業務の効率化のために業務委託を活用しています。
給与計算を業務委託するメリット
1. 専門知識不要で正確な計算ができる
給与計算は、労働基準法、所得税法、社会保険法など複雑な法律知識が必要です。業務委託すれば、専門家が最新の法令に基づいて正確に計算してくれます。
避けられるリスク:
- 所得税の計算ミス
- 社会保険料の控除ミス
- 残業代の計算ミス
- 年末調整の誤り
2. 人件費・教育コストの削減
給与計算担当者を雇用すると、給与だけでなく社会保険料、教育コスト、退職リスクなどが発生します。業務委託なら、必要な業務量に応じた費用のみで済みます。
コスト比較例:
自社で担当者を雇用する場合:
- 給与:月25万円
- 社会保険料:月4万円
- 合計:月29万円 × 12か月 = 年間348万円
- さらに教育コスト、退職リスク
業務委託する場合(従業員30名):
- 月額3〜5万円程度
- 年間36〜60万円
3. 法改正への対応が自動
税法や社会保険の制度は頻繁に改正されます。業務委託先は常に最新情報をキャッチアップしているため、法改正への対応を気にする必要がありません。
近年の主な法改正例:
- 雇用保険料率の変更
- 健康保険料率の変更
- 給与デジタル払いの解禁
- 育児休業制度の改正
4. コア業務に集中できる
給与計算は重要ですが、会社の売上に直結するコア業務ではありません。業務委託により、経営者や社員が本来の業務に集中できます。
5. 退職・休職リスクがない
給与計算担当者が急に退職や休職すると、業務が滞るリスクがあります。業務委託なら、担当者の退職リスクを考える必要がありません。
6. 年末調整の負担軽減
年末調整は1年で最も繁忙な業務です。業務委託すれば、この負担から解放されます。
給与計算を業務委託するデメリット
1. 委託費用がかかる
当然ですが、業務委託には費用がかかります。ただし、人件費と比較すると多くの場合は安く済みます。
2. 社内にノウハウが蓄積されない
すべて外部に任せると、社内に給与計算のノウハウが残りません。将来的に内製化したい場合は注意が必要です。
3. 情報の外部提供が必要
従業員の個人情報(給与額、扶養家族情報など)を外部に提供する必要があります。情報セキュリティの確認が重要です。
4. コミュニケーションコスト
勤怠データの提供、イレギュラーな対応の依頼など、委託先とのやり取りが必要です。
5. 即座の対応が難しい場合がある
社内で給与計算している場合は、従業員からの質問にすぐ答えられますが、業務委託の場合は委託先に確認が必要なケースがあります。
給与計算業務委託の費用相場
月額料金の相場
給与計算の業務委託費用は、主に従業員数に応じて決まります。
一般的な料金相場:
| 従業員数 | 月額料金 | |---------|---------| | 1〜10名 | 1.5万円〜3万円 | | 11〜20名 | 2万円〜4万円 | | 21〜30名 | 3万円〜5万円 | | 31〜50名 | 4万円〜7万円 | | 51〜100名 | 7万円〜12万円 |
料金の内訳:
- 基本料金(固定費)
- 従業員1名あたりの単価(変動費)
例:従業員20名の場合
- 基本料金:2万円
- 従業員単価:1,000円 × 20名 = 2万円
- 合計:月額4万円
追加料金が発生する業務
年末調整:
- 従業員1名あたり1,000円〜2,000円
賞与計算:
- 通常月の50%程度の追加料金
社会保険手続き:
- 資格取得・喪失:1件あたり3,000円〜5,000円
- 算定基礎届:1名あたり500円〜1,000円
住民税の異動届:
- 1件あたり500円〜1,000円
費用を抑えるポイント
勤怠データを整理して提供: 委託先が勤怠データを整理する必要がないよう、Excel等で整理して提供すれば費用を抑えられます。
複数社で相見積もり: 3社程度から見積もりを取り、比較検討しましょう。
セット契約: 給与計算と社会保険手続きをセットで契約すると割引がある場合があります。
主な委託先の種類と特徴
1. 社会保険労務士(社労士)
特徴:
- 給与計算だけでなく、社会保険の専門家
- 労務相談にも対応可能
- 個人事務所から大規模事務所まで幅広い
メリット:
- 社会保険手続きも一括で依頼できる
- 労務トラブルの相談ができる
- 就業規則の作成・改定も依頼可能
デメリット:
- 個人事務所の場合、担当者の退職リスクがある
- 費用がやや高めの場合がある
向いている企業:
- 社会保険手続きも一緒に依頼したい
- 労務相談も必要
- 10〜100名程度の企業
2. 給与計算代行会社
特徴:
- 給与計算に特化したサービス
- クラウドシステムを活用
- 大量の給与計算を効率的に処理
メリット:
- 給与計算に特化しており、処理が早い
- システム化されており、ミスが少ない
- 費用が比較的安い
デメリット:
- 労務相談には対応していない場合が多い
- 社会保険手続きは別途依頼が必要な場合がある
向いている企業:
- 給与計算のみを委託したい
- できるだけ費用を抑えたい
- 100名以上の大企業
3. 税理士事務所
特徴:
- 税務顧問と給与計算をセットで提供
- 年末調整に強い
メリット:
- 税務顧問と一体的にサービスを受けられる
- 年末調整や源泉徴収の知識が豊富
デメリット:
- 社会保険手続きは対応していない場合が多い
- 給与計算は付随業務として扱われることがある
向いている企業:
- すでに税理士と顧問契約がある
- 税務と給与計算を一元管理したい
委託先の選び方
1. 対応範囲を確認
確認ポイント:
- 給与計算のみか、社会保険手続きも含むか
- 年末調整は含まれるか
- 労務相談は可能か
- 就業規則の作成は依頼できるか
2. 料金体系の明確さ
確認ポイント:
- 基本料金と従業員単価が明確か
- 年末調整や賞与計算の追加料金は?
- 見積もりが詳細か
3. 実績と専門性
確認ポイント:
- 同業種・同規模の企業の実績があるか
- 創業年数や従業員数
- 専門資格(社労士、税理士)の有無
4. セキュリティ対策
確認ポイント:
- プライバシーマークやISMS認証の取得
- データの暗号化
- 情報漏洩時の補償
5. システムの使いやすさ
確認ポイント:
- クラウドシステムの提供があるか
- 勤怠データの連携方法
- 給与明細の配布方法(Web明細か、紙か)
6. サポート体制
確認ポイント:
- 専任担当者がつくか
- 問い合わせへの対応時間
- 緊急時の連絡方法
7. 契約期間と解約条件
確認ポイント:
- 最低契約期間は?
- 解約時の条件(何か月前の通知が必要か)
- 途中解約時の違約金は?
業務委託の手続きの流れ
1. 委託先の選定(1〜2か月前)
手順:
- 複数の委託先候補をリストアップ
- 各社に問い合わせ、見積もりを依頼
- 面談を実施し、対応範囲や料金を確認
- 相見積もりを比較検討
- 委託先を決定
2. 契約締結(1か月前)
必要な書類:
- 業務委託契約書
- 秘密保持契約書(NDA)
- 個人情報取扱いに関する覚書
契約書の確認ポイント:
- 委託業務の範囲
- 料金と支払い条件
- 契約期間と更新方法
- 解約条件
- 損害賠償の範囲
3. データの引き継ぎ(開始1か月前)
提供する情報:
- 従業員名簿(氏名、住所、扶養家族情報)
- 給与規程、賃金台帳
- 過去の給与明細(直近3か月分程度)
- 社会保険の資格取得年月日
- 雇用契約書
- タイムカードや勤怠データ
4. システム設定とテスト計算(開始前)
手順:
- 委託先が給与システムに従業員情報を登録
- テスト計算を実施
- 自社の計算結果と照合
- 差異があれば原因を確認・修正
5. 運用開始
毎月の流れ:
- 勤怠データを委託先に提供(締日後)
- 委託先が給与計算を実施
- 給与明細の確認(支給日の数日前)
- 問題なければ承認
- 給与振込データを受領、銀行振込を実行
- 給与明細を従業員に配布
業務委託時の注意点
1. 勤怠データの提出期限を守る
委託先が給与計算するには、正確な勤怠データが必要です。提出期限を守らないと、給与支給に間に合わなくなります。
対策:
- 社内の締日を明確にする
- 勤怠システムを導入し、データ提出を効率化
2. イレギュラーな対応の連絡
早めに連絡すべき事項:
- 新入社員・退職者の情報
- 昇給・降給
- 賞与の支給
- 休職・復職
- 扶養家族の変更
3. 情報セキュリティの確保
給与情報は重要な個人情報です。以下を確認しましょう。
確認ポイント:
- 秘密保持契約を締結する
- データの受け渡し方法(暗号化されたメール、専用システム)
- 委託先のセキュリティ対策
4. 自社でも最低限の知識を持つ
すべて委託先任せにせず、最低限の給与計算の知識を持つことが重要です。
把握すべき知識:
- 基本的な給与の仕組み
- 所得税・住民税の控除の仕組み
- 社会保険料の計算方法
5. 定期的な見直し
年に1回程度、以下を見直しましょう:
- 委託費用が適正か(相場と比較)
- サービス内容に満足しているか
- 他社のサービスと比較
業務委託から内製化への切り替え
将来的に内製化したい場合の準備も重要です。
内製化のタイミング
内製化を検討すべき場合:
- 従業員数が増え、委託費用が高くなった
- 給与計算の知識を持つ社員が入社した
- より柔軟な対応が必要になった
内製化の準備
必要な準備:
- 給与計算ソフトの導入
- 担当者への簿記・給与計算の教育
- 給与規程の整備
- 委託先から計算式やノウハウの引き継ぎ
まとめ:給与計算の業務委託で効率化を実現
給与計算の業務委託は、専門知識不要で正確な計算ができ、人件費や教育コストを削減できるメリットがあります。社会保険労務士、給与計算代行会社、税理士事務所が主な委託先で、従業員数に応じて月額1.5万円〜12万円程度が相場です。
委託先を選ぶ際は、対応範囲、料金体系の明確さ、実績、セキュリティ対策、システムの使いやすさを確認しましょう。業務委託により、経営者や社員はコア業務に集中でき、法改正への対応も自動化されます。
一方で、委託費用がかかることや社内にノウハウが蓄積されないデメリットもあります。自社の規模や状況に応じて、業務委託と内製化のどちらが適切か判断することが重要です。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な業務委託の検討は、専門家に相談することをお勧めします。
