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相続財産の評価方法を完全解説|土地・建物・株式の正しい評価

2025-10-18
  • 相続税
  • 税務実務

相続財産の評価とは

相続財産の評価とは、相続税を計算するために、被相続人の財産を金額で表すことです。相続税は、相続財産の価額を基に計算されるため、適正な評価が非常に重要です。

評価額が高くなれば相続税も高くなり、評価額が低くなれば相続税も低くなります。そのため、財産評価は相続税申告において最も重要な作業の一つといえます。

財産評価の基本原則

  • 相続開始時点(死亡日)の時価で評価
  • 財産評価基本通達に従って評価
  • 公平性と合理性を確保
  • 実務上の便宜も考慮

評価を誤るリスク

  • 相続税を過大に納付してしまう
  • 過少申告で税務調査を受け、追徴課税される
  • 特例が適用できなくなる
  • 遺産分割でトラブルになる

財産評価の時期

相続財産は、相続開始の時(被相続人が亡くなった日)の現況で評価します。

評価時期の重要性

株式や不動産など、財産の価値は日々変動します。相続開始日の価額を正確に把握することが重要です。

2025年6月15日に死亡した場合、2025年6月15日時点の価額で評価します。翌日に株価が下がっても、相続税の計算には影響しません。

相続開始後に価値が変動した場合

相続開始後に財産の価値が大きく変動しても、相続税の評価には影響しません。

  • 相続開始時:株式の評価額1,000万円
  • 遺産分割時(6か月後):株式の時価500万円に下落 → 相続税は1,000万円で計算

土地の評価方法

土地の評価は、相続財産評価の中で最も複雑で専門的な知識が必要です。

路線価方式

路線価方式は、路線価が設定されている地域の土地を評価する方法です。市街地の多くは路線価方式で評価します。

路線価とは

路線価とは、道路に面する標準的な宅地の1平方メートルあたりの価額です。国税庁が毎年7月に公表します。

路線価の調べ方

国税庁のホームページ「路線価図・評価倍率表」で確認できます。

基本的な計算式

土地の評価額 = 路線価 × 地積(面積)

例:北九州市小倉北区の土地

路線価:20万円/㎡ 面積:200㎡

評価額 = 20万円 × 200㎡ = 4,000万円

各種補正率の適用

実際の土地は、形状や立地条件が様々であり、画一的に路線価をかけただけでは適正な評価になりません。そこで、各種の補正率を適用します。

主な補正率

奥行価格補正率

土地の奥行きが標準的でない場合に適用します。奥行きが極端に浅い、または深い土地は、使い勝手が悪いため、評価額を減額します。

  • 奥行き5m:補正率0.90
  • 奥行き10m:補正率1.00(標準)
  • 奥行き40m:補正率0.90

間口狭小補正率

間口(道路に接している部分)が狭い土地に適用します。

  • 間口4m:補正率0.97
  • 間口2m:補正率0.90

不整形地補正率

形状がいびつな土地に適用します。正方形や長方形に近い土地は使いやすいですが、三角形や旗竿地などは使い勝手が悪いため、減額されます。

がけ地補正率

土地の一部ががけになっている場合に適用します。がけ地の割合に応じて減額されます。

複数の補正率を適用する例

路線価:20万円/㎡ 面積:200㎡ 奥行価格補正率:0.95 間口狭小補正率:0.97

評価額 = 20万円 × 200㎡ × 0.95 × 0.97 = 3,686万円

補正率を適用することで、4,000万円から3,686万円に減額されました。

二路線に面する土地

角地など、2つの道路に面する土地は、「側方路線影響加算」または「二方路線影響加算」により、評価額が加算されます。

計算方法

正面路線(路線価が高い方)の評価額に、側方路線の評価額の一定割合を加算します。

評価額 = 正面路線の評価額 + 側方路線の評価額 × 側方路線影響加算率

側方路線影響加算率の例

  • 角地:0.03〜0.08程度

私道の評価

私道は、通常の宅地より評価が低くなります。

評価方法

  • 不特定多数の者が利用する私道:評価額 = 0円
  • 特定の者が利用する私道:評価額 = 通常の宅地の30%

倍率方式

倍率方式は、路線価が設定されていない地域の土地を評価する方法です。郊外や農村部の土地は、倍率方式で評価することが多いです。

計算式

土地の評価額 = 固定資産税評価額 × 倍率

倍率の調べ方

国税庁のホームページ「路線価図・評価倍率表」の「評価倍率表」で確認できます。地域ごとに倍率が設定されています。

例:北九州市門司区の一部地域

固定資産税評価額:1,000万円 倍率:1.1

土地の評価額 = 1,000万円 × 1.1 = 1,100万円

固定資産税評価額の確認方法

固定資産税の納税通知書、または市区町村役場で取得できる固定資産税評価証明書で確認できます。

貸地・貸家建付地の評価

土地を貸している場合、または土地上に貸家がある場合、土地の評価額は減額されます。

貸地(借地権が設定されている土地)

貸地の評価額 = 自用地評価額 × (1 - 借地権割合)

借地権割合

路線価図に記載されています。地域によって異なり、30%〜90%の範囲です。都市部ほど高くなります。

自用地評価額:5,000万円 借地権割合:60%

貸地の評価額 = 5,000万円 × (1 - 0.6) = 2,000万円

貸家建付地(賃貸アパートなどの敷地)

貸家建付地の評価額 = 自用地評価額 × (1 - 借地権割合 × 借家権割合 × 賃貸割合)

借家権割合

通常30%です。

賃貸割合

賃貸している部分の割合です。全室が賃貸されていれば100%、半分が空室なら50%です。

自用地評価額:5,000万円 借地権割合:60% 借家権割合:30% 賃貸割合:100%

貸家建付地の評価額 = 5,000万円 × (1 - 0.6 × 0.3 × 1.0)
                    = 5,000万円 × 0.82 = 4,100万円

自用地より900万円減額されます。

農地・山林の評価

農地の評価

農地は、以下の区分に応じて評価方法が異なります。

  • 純農地:農地として評価(倍率方式)
  • 中間農地:農地として評価(倍率方式)
  • 市街地周辺農地:宅地としての評価額の80%
  • 市街地農地:宅地として評価

山林の評価

山林も倍率方式で評価することが一般的です。固定資産税評価額に倍率を乗じます。

建物の評価方法

建物の評価は、土地に比べてシンプルです。

自用家屋

評価方法

建物の評価額 = 固定資産税評価額

固定資産税評価額は、固定資産税の納税通知書、または固定資産税評価証明書で確認できます。

固定資産税評価額:1,500万円

建物の評価額 = 1,500万円

固定資産税評価額と時価の関係

固定資産税評価額は、建築費の50〜70%程度といわれています。

  • 建築費:3,000万円
  • 固定資産税評価額:1,800万円(建築費の60%)
  • 相続税評価額:1,800万円

建築直後であれば、建築費より大幅に低い金額で評価されるため、相続税の節税になります。

貸家

賃貸アパートなど、貸している建物は評価額が減額されます。

評価方法

貸家の評価額 = 固定資産税評価額 × (1 - 借家権割合 × 賃貸割合)

借家権割合

通常30%です。

固定資産税評価額:2,000万円 借家権割合:30% 賃貸割合:100%

貸家の評価額 = 2,000万円 × (1 - 0.3 × 1.0) = 1,400万円

自用家屋より600万円減額されます。

マンションの評価

区分所有マンションの評価

マンションの場合、土地と建物を別々に評価します。

敷地権(土地)

マンション全体の敷地を路線価方式または倍率方式で評価し、持分割合を乗じます。

敷地権の評価額 = マンション全体の土地の評価額 × 持分割合

建物

専有部分の固定資産税評価額がそのまま評価額となります。

タワーマンションの評価

タワーマンションの高層階は、市場価格が高い割に固定資産税評価額が低いため、相続税評価額も低くなります。これを利用した節税対策が「タワーマンション節税」です。

市場価格:1億円のタワーマンション高層階 固定資産税評価額(建物):800万円 土地の評価額(持分):2,200万円 相続税評価額:3,000万円

市場価格の30%で評価されるため、大きな節税効果があります。

注意点

2024年以降、タワーマンションの評価方法の見直しが検討されており、今後は節税効果が薄れる可能性があります。

株式・有価証券の評価方法

上場株式

上場株式は、以下の4つの価格のうち、最も低い価格で評価します。

  1. 相続開始日の終値
  2. 相続開始月の終値の平均額
  3. 相続開始月の前月の終値の平均額
  4. 相続開始月の前々月の終値の平均額

相続開始日:2025年6月15日

  • 6月15日の終値:1,000円
  • 6月の平均:980円
  • 5月の平均:1,020円
  • 4月の平均:950円

最も低い金額は4月の平均950円なので、評価額は950円です。

所有株数が1,000株の場合、評価額は以下のようになります。

評価額 = 950円 × 1,000株 = 95万円

株価の調べ方

証券会社のホームページや、日本取引所グループのホームページで確認できます。

非上場株式(同族会社の株式)

非上場株式の評価は非常に複雑です。会社の規模や株主の立場によって評価方法が異なります。

評価方法の分類

原則的評価方式

同族株主など、会社の経営を支配する立場にある株主が取得した株式に適用します。

  • 類似業種比準方式
  • 純資産価額方式
  • 併用方式(上記2つを組み合わせる)

特例的評価方式

同族株主以外の少数株主が取得した株式に適用します。

  • 配当還元方式

類似業種比準方式

評価する会社と類似する業種の上場会社の株価を基に評価します。

純資産価額方式

会社の純資産額を基に評価します。全ての資産を時価評価し、負債を差し引いた純資産額を発行済株式数で割ります。

配当還元方式

配当金額を基に評価します。少数株主にとって、株式の価値は配当を受け取ることにあるため、配当を基準に低く評価します。

年間配当:1株あたり10円 評価額:1株あたり100円程度

配当還元方式は、原則的評価方式より大幅に低い金額になります。

非上場株式の評価は税理士へ

非上場株式の評価は非常に複雑であり、専門的な知識が必要です。誤った評価をすると、税務調査で指摘されるリスクが高いため、必ず税理士に相談することをお勧めします。

預貯金・現金の評価

預貯金

預貯金は、相続開始日の残高がそのまま評価額となります。

普通預金・当座預金

相続開始日の残高

定期預金

評価額 = 元本 + 既経過利息 - 源泉所得税相当額

既経過利息とは、預入日から相続開始日までの利息です。

元本:1,000万円 預入日:2024年6月1日 相続開始日:2025年6月15日 年利率:0.1% 既経過利息:約10,000円(税引前) 源泉所得税相当額:約2,000円

評価額 = 1,000万円 + 10,000円 - 2,000円 = 10,008,000円

現金

手元現金は、相続開始日に存在していた現金の金額がそのまま評価額となります。

タンス預金も申告が必要

自宅に保管していた現金(タンス預金)も相続財産に含まれます。申告しないと、税務調査で指摘され、追徴課税される可能性があります。

生命保険金・死亡退職金の評価

生命保険金

生命保険金は、相続税法上「みなし相続財産」として扱われます。

非課税限度額

非課税限度額 = 500万円 × 法定相続人の数

法定相続人:3人 生命保険金:2,000万円

非課税限度額 = 500万円 × 3人 = 1,500万円
課税対象額 = 2,000万円 - 1,500万円 = 500万円

契約形態に注意

生命保険金は、契約者・被保険者・受取人の組み合わせによって、相続税・贈与税・所得税のいずれかが課税されます。

相続税が課税される場合

  • 契約者(保険料負担者):被相続人
  • 被保険者:被相続人
  • 受取人:相続人

死亡退職金

死亡退職金も、生命保険金と同様に非課税限度額があります。

非課税限度額

非課税限度額 = 500万円 × 法定相続人の数

その他の財産の評価

自動車

自動車は、相続開始時点の時価で評価します。

評価方法

  • 中古車販売業者の査定額
  • インターネットの中古車情報サイトでの類似車両の価格

相続開始時点で5年落ちの普通自動車 査定額:50万円

評価額 = 50万円

貴金属・美術品

貴金属

金、プラチナなどは、相続開始日の市場価格で評価します。

美術品

評価額が高額な場合、専門家による鑑定が必要です。

評価額の目安

  • 購入価格
  • 売買実例価額
  • 精通者意見価格

ゴルフ会員権

ゴルフ会員権は、取引相場がある場合、その70%で評価します。

取引相場:100万円

評価額 = 100万円 × 70% = 70万円

債務・葬式費用の控除

相続財産から、債務と葬式費用を控除できます。

控除できる債務

主な債務

  • 借入金(住宅ローン、事業資金など)
  • 未払金(医療費、税金、クレジットカードなど)
  • 未払いの固定資産税
  • 預かり敷金

控除できない債務

  • 保証債務(実際に履行していない場合)
  • 非課税財産に係る債務

控除できる葬式費用

控除できるもの

  • 通夜、告別式の費用
  • 火葬、埋葬、納骨の費用
  • お寺へのお布施、戒名料
  • 運転手や手伝いへの心付け

控除できないもの

  • 香典返し
  • 初七日、四十九日などの法要費用
  • お墓、仏壇の購入費用(これらは相続税非課税)

財産評価で税理士に相談すべき理由

財産評価は、相続税申告の中で最も専門的な知識が必要な分野です。特に以下のような場合は、税理士への相談が不可欠です。

税理士への相談が特に必要なケース

  • 不動産が複数ある
  • 土地の形状が複雑(不整形地、がけ地など)
  • 非上場株式を所有している
  • 賃貸不動産を所有している
  • 財産の種類が多い
  • 評価額が基礎控除額に近い

税理士に依頼するメリット

  • 適正な評価により、相続税を適正化できる
  • 評価の根拠資料を整備し、税務調査リスクを減らせる
  • 特例の適用により、大幅な節税が可能
  • 複雑な計算を正確に実施
  • 申告期限内に確実に申告

北九州市内の不動産評価

北九州市内は、地域によって不動産の価格が大きく異なります。小倉北区や八幡西区の中心部は路線価が高く、郊外は低くなります。地域の不動産事情に精通した税理士に相談することで、適切な評価が可能になります。

まとめ

相続財産の評価は、相続税申告において最も重要な作業です。土地は路線価方式または倍率方式で評価し、建物は固定資産税評価額、株式は上場・非上場で評価方法が異なります。預貯金や生命保険金、その他の財産についても、それぞれ適切な評価方法があります。

財産評価を誤ると、相続税を過大に納付したり、過少申告で追徴課税を受けたりするリスクがあります。特に不動産や非上場株式など、評価が複雑な財産については、税理士など専門家のサポートを受けることが重要です。

北九州で相続が発生した方、または相続対策を検討している方は、地域の不動産事情に詳しい税理士に早めに相談し、適正な財産評価と相続税申告を進めましょう。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な財産評価や相続税申告については、税理士にご相談ください。

現在弊社では、ZOOMを利用したオンラインによる面談を行っております。
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