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法人の消費税計算を完全解説!原則課税・簡易課税・申告手続きまで
2025-10-14
- 法人税
- 消費税
法人の消費税計算の基本
法人の消費税は、預かった消費税(仮受消費税)から支払った消費税(仮払消費税)を差し引いて計算します。
基本的な計算式:
納付税額 = 課税売上に係る消費税 - 課税仕入に係る消費税
具体例:
- 商品を11,000万円(税込)で販売 → 預かった消費税:1,000万円
- 商品を5,500万円(税込)で仕入 → 支払った消費税:500万円
- 納付税額:1,000万円 - 500万円 = 500万円
課税事業者と免税事業者
課税事業者
課税事業者とは:
- 基準期間(2期前)の課税売上高が1,000万円を超える事業者
- 消費税の納税義務がある
基準期間の例(2024年度の判定):
- 2024年度が課税事業者か判定する場合
- 基準期間:2022年度(2期前)
- 2022年度の課税売上高が1,000万円超 → 2024年度は課税事業者
特定期間による判定:
- 基準期間の課税売上高が1,000万円以下でも、特定期間(前期の上半期)の課税売上高が1,000万円を超え、かつ給与等支払額が1,000万円を超える場合は課税事業者になる
免税事業者
免税事業者とは:
- 基準期間の課税売上高が1,000万円以下の事業者
- 消費税の納税義務がない
- 消費税を預かっても納付不要(益税)
注意点:
- インボイス制度(2023年10月開始)により、免税事業者との取引では仕入税額控除ができなくなるため、免税事業者は取引上不利になる可能性がある
消費税の計算方法:原則課税と簡易課税
消費税の計算方法には、原則課税と簡易課税の2つがあります。
原則課税(一般課税)
原則課税とは: 実際に預かった消費税と支払った消費税を計算し、差額を納付する方法
計算式:
納付税額 = 課税売上に係る消費税 - 課税仕入に係る消費税
適用対象:
- すべての課税事業者が原則としてこの方法を使う
メリット:
- 実際の取引に基づいて計算されるため、公平
- 仕入が多い事業者は納税額が少なくなる
デメリット:
- すべての仕入や経費の消費税を集計する必要があり、事務負担が大きい
簡易課税
簡易課税とは: 実際の仕入に係る消費税を計算せず、みなし仕入率を使って納税額を計算する簡便な方法
計算式:
納付税額 = 課税売上に係る消費税 × (1 - みなし仕入率)
適用要件:
- 基準期間の課税売上高が5,000万円以下
- 事前に「消費税簡易課税制度選択届出書」を提出
みなし仕入率: | 事業区分 | 業種 | みなし仕入率 | |---------|------|-------------| | 第一種事業 | 卸売業 | 90% | | 第二種事業 | 小売業 | 80% | | 第三種事業 | 製造業、建設業、農業など | 70% | | 第四種事業 | その他(飲食店など) | 60% | | 第五種事業 | サービス業、運輸通信業など | 50% | | 第六種事業 | 不動産業 | 40% |
メリット:
- 仕入に係る消費税を集計する必要がなく、事務負担が軽い
- 実際の仕入率がみなし仕入率より低い場合、納税額が少なくなる
デメリット:
- 実際の仕入率がみなし仕入率より高い場合、納税額が多くなる
- 2年間は変更できない
原則課税の計算手順
ステップ1: 課税売上高の集計
課税売上高とは: 消費税が課される売上高(国内での商品販売、サービス提供など)
課税売上に含まれるもの:
- 商品の販売
- サービスの提供
- 固定資産の売却(土地を除く)
課税売上に含まれないもの(非課税売上):
- 土地の売却
- 有価証券の売却
- 利息収入
- 保険料収入
- 住宅の賃貸料
ステップ2: 課税売上に係る消費税の計算
計算式:
課税売上に係る消費税 = 課税売上高(税抜) × 10%
例:
- 課税売上高(税抜):1億円
- 課税売上に係る消費税:1億円 × 10% = 1,000万円
軽減税率(8%)の売上がある場合:
課税売上に係る消費税 = (標準税率の売上 × 10%) + (軽減税率の売上 × 8%)
ステップ3: 課税仕入に係る消費税の集計
課税仕入とは: 事業のために購入した商品や経費で、消費税が課されているもの
課税仕入に含まれるもの:
- 商品の仕入
- 原材料の購入
- 外注費
- 消耗品費
- 地代家賃(事業用)
- 水道光熱費
- 通信費
課税仕入に含まれないもの(非課税仕入):
- 土地の購入・賃借料
- 住宅の賃借料
- 給与・賃金
- 社会保険料
- 利息
ステップ4: 課税仕入に係る消費税の計算
計算式:
課税仕入に係る消費税 = 課税仕入高(税抜) × 10%
例:
- 課税仕入高(税抜):6,000万円
- 課税仕入に係る消費税:6,000万円 × 10% = 600万円
ステップ5: 仕入税額控除の調整(課税売上割合)
課税売上割合とは: 全体の売上のうち、課税売上が占める割合
計算式:
課税売上割合 = 課税売上高 ÷ (課税売上高 + 非課税売上高)
課税売上割合が95%以上の場合:
- すべての課税仕入に係る消費税を控除できる(全額控除)
課税売上割合が95%未満の場合:
- 課税売上に対応する部分のみ控除できる(個別対応方式または一括比例配分方式)
一括比例配分方式の計算:
控除できる消費税 = 課税仕入に係る消費税 × 課税売上割合
例:
- 課税仕入に係る消費税:600万円
- 課税売上割合:90%
- 控除できる消費税:600万円 × 90% = 540万円
ステップ6: 納付税額の計算
計算式:
納付税額 = 課税売上に係る消費税 - 控除できる消費税
例:
- 課税売上に係る消費税:1,000万円
- 控除できる消費税:540万円
- 納付税額:1,000万円 - 540万円 = 460万円
地方消費税の計算:
地方消費税 = 納付税額(国税) × 22/78
例:
- 納付税額(国税):460万円
- 地方消費税:460万円 × 22/78 ≒ 129.7万円
- 合計納付額:460万円 + 129.7万円 ≒ 589.7万円
簡易課税の計算手順
ステップ1: 課税売上高の集計
原則課税と同じ
ステップ2: 課税売上に係る消費税の計算
原則課税と同じ
ステップ3: みなし仕入率の適用
計算式:
控除できる消費税 = 課税売上に係る消費税 × みなし仕入率
例:小売業(みなし仕入率80%)の場合
- 課税売上に係る消費税:1,000万円
- 控除できる消費税:1,000万円 × 80% = 800万円
ステップ4: 納付税額の計算
計算式:
納付税額 = 課税売上に係る消費税 × (1 - みなし仕入率)
例:小売業の場合
- 課税売上に係る消費税:1,000万円
- みなし仕入率:80%
- 納付税額:1,000万円 × (1 - 80%) = 200万円
地方消費税の計算:
- 地方消費税:200万円 × 22/78 ≒ 56.4万円
- 合計納付額:200万円 + 56.4万円 ≒ 256.4万円
原則課税と簡易課税の比較例
前提条件:
- 課税売上高(税抜):1億円
- 課税仕入高(税抜):5,000万円(実際の仕入率50%)
- 業種:小売業(みなし仕入率80%)
原則課税の場合:
- 課税売上に係る消費税:1,000万円
- 課税仕入に係る消費税:500万円
- 納付税額:1,000万円 - 500万円 = 500万円
簡易課税の場合:
- 課税売上に係る消費税:1,000万円
- 控除できる消費税:1,000万円 × 80% = 800万円
- 納付税額:1,000万円 - 800万円 = 200万円
この場合、簡易課税の方が300万円少ない納税額
実際の仕入率(50%)がみなし仕入率(80%)より低い場合、簡易課税が有利になります。
消費税申告の流れ
1. 申告期限
法人の消費税申告期限:
- 決算日から2か月以内
例:
- 決算日:2024年3月31日
- 申告期限:2024年5月31日
延長申請:
- 申告期限の延長は認められない(法人税と異なる)
2. 申告書の種類
原則課税の場合:
- 消費税及び地方消費税の確定申告書(一般用)
簡易課税の場合:
- 消費税及び地方消費税の確定申告書(簡易課税用)
3. 申告書の作成
記載事項:
- 課税売上高
- 課税売上に係る消費税額
- 課税仕入に係る消費税額(または控除税額)
- 差引税額(納付税額または還付税額)
- 地方消費税額
添付書類:
- 課税取引金額計算表
- 課税売上割合・控除対象仕入税額等の計算表(原則課税の場合)
- 付表(簡易課税の場合)
4. 納付方法
納付方法:
- 税務署窓口での現金納付
- 銀行窓口での納付
- インターネットバンキングでの電子納付(e-Tax)
- クレジットカード納付
- コンビニ納付(30万円以下)
- 振替納税(事前に手続きが必要)
振替納税の納付日:
- 申告期限から約1か月後
5. 中間申告・納付
中間申告が必要な場合:
- 前年の消費税納付額が48万円を超える場合
中間申告の回数: | 前年の納付税額 | 中間申告回数 | 申告時期 | |---------------|-------------|---------| | 48万円以下 | なし | - | | 48万円超〜400万円以下 | 年1回 | 決算後8か月 | | 400万円超〜4,800万円以下 | 年3回 | 決算後3・6・9か月 | | 4,800万円超 | 年11回 | 毎月 |
中間納付額の計算:
中間納付額 = 前年の消費税納付額 ÷ 中間申告回数
インボイス制度と消費税計算
インボイス制度とは
インボイス制度(2023年10月開始):
- 適格請求書(インボイス)を保存しないと、仕入税額控除ができない制度
適格請求書発行事業者:
- 税務署に登録申請をした課税事業者のみ
- 登録番号が付与される
免税事業者への影響:
- 免税事業者はインボイスを発行できない
- 免税事業者からの仕入は、仕入税額控除ができない
- 取引先が課税事業者の場合、不利になる可能性
経過措置
2023年10月〜2026年9月:
- 免税事業者からの仕入でも、80%の仕入税額控除が可能
2026年10月〜2029年9月:
- 免税事業者からの仕入でも、50%の仕入税額控除が可能
2029年10月以降:
- 免税事業者からの仕入は、仕入税額控除不可
消費税計算でよくある質問
Q1: 課税売上高1,000万円は税込ですか、税抜ですか?
A: 税抜金額で判定します。
例:
- 税込売上高:1,050万円
- 税抜売上高:1,050万円 ÷ 1.1 ≒ 954.5万円
- 判定:1,000万円以下 → 免税事業者
Q2: 簡易課税と原則課税、どちらが有利ですか?
A: 実際の仕入率とみなし仕入率を比較して判断します。
簡易課税が有利な場合:
- 実際の仕入率 < みなし仕入率
- 例:小売業でみなし仕入率80%だが、実際の仕入率が50%の場合
原則課税が有利な場合:
- 実際の仕入率 > みなし仕入率
- 例:サービス業でみなし仕入率50%だが、実際の仕入率が70%の場合
Q3: 中間申告を忘れたらどうなりますか?
A: 中間申告をしなかった場合、前年実績による中間納付額が自動的に確定し、納付義務が発生します。納付が遅れると、延滞税がかかります。
Q4: 消費税の還付を受けられるのはどんな場合ですか?
A: 課税仕入に係る消費税が、課税売上に係る消費税を上回る場合、還付を受けられます。
還付が発生する例:
- 輸出業(輸出は消費税0%)
- 多額の設備投資をした場合
- 創業初期で売上より仕入が多い場合
Q5: 免税事業者がインボイス登録すべきですか?
A: 取引先が課税事業者の場合、インボイス登録を検討すべきです。
登録するメリット:
- 取引先が仕入税額控除できるため、取引を継続しやすい
登録するデメリット:
- 消費税の納税義務が発生する(益税がなくなる)
売上規模、取引先の状況、事務負担などを総合的に判断しましょう。
まとめ:法人の消費税計算を正しく理解しよう
法人の消費税は、預かった消費税から支払った消費税を差し引いて計算します。原則課税では実際の取引に基づいて計算し、簡易課税ではみなし仕入率を使って簡便に計算します。
課税売上割合が95%未満の場合は、仕入税額控除の調整が必要です。申告期限は決算日から2か月以内で、前年の納付税額が48万円を超える場合は中間申告・納付も必要です。
インボイス制度の開始により、適格請求書の保存が仕入税額控除の要件となりました。免税事業者は、取引先との関係を考慮してインボイス登録を検討する必要があります。
簡易課税と原則課税のどちらが有利かは、実際の仕入率とみなし仕入率を比較して判断しましょう。消費税の計算は複雑なため、不明な点は税理士に相談することをお勧めします。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務処理については、税理士に相談することをお勧めします。
