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役員報酬の最適化と計算方法を完全ガイド!法人税・社会保険料を考慮した設定のポイント
2025-10-12
- 法人税
- 税務実務
役員報酬の最適化とは
役員報酬の最適化とは、法人税、所得税、社会保険料の合計負担を最小化しつつ、会社と役員個人のキャッシュフローを最適なバランスに保つことです。
役員報酬は単純に「高ければ良い」「低ければ良い」というものではなく、様々な要素を総合的に判断する必要があります。
役員報酬を決める際に考慮すべき要素:
- 法人税の負担
- 役員個人の所得税・住民税の負担
- 社会保険料の負担
- 会社の資金繰り
- 銀行融資への影響
- 定期同額給与のルール
役員報酬と法人税・所得税の関係
役員報酬を増やした場合
会社側:
- 役員報酬は損金算入できる → 法人税が減る
- 利益が減る → 法人税が減る
役員個人側:
- 役員報酬が増える → 所得税・住民税が増える(累進課税)
- 社会保険料が増える
役員報酬を減らした場合
会社側:
- 損金が減る → 法人税が増える
- 利益が増える → 法人税が増える
役員個人側:
- 役員報酬が減る → 所得税・住民税が減る
- 社会保険料が減る
最適なバランスの考え方
トータルの税負担:
合計税負担 = 法人税 + 所得税 + 住民税 + 社会保険料(会社負担分 + 個人負担分)
この合計税負担を最小化する役員報酬額を見つけることが最適化です。
役員報酬の計算シミュレーション
前提条件
会社:
- 中小企業(資本金1,000万円以下)
- 年間利益(役員報酬控除前):2,000万円
- 役員:社長1名
パターン1: 役員報酬600万円の場合
会社の税負担:
- 課税所得:2,000万円 - 600万円 = 1,400万円
- 法人税(実効税率約33%):1,400万円 × 33% ≒ 462万円
- 社会保険料(会社負担):約90万円
役員個人の税負担:
- 所得税(給与所得控除後):約50万円
- 住民税:約60万円
- 社会保険料(個人負担):約90万円
合計税負担: 462万円 + 90万円 + 50万円 + 60万円 + 90万円 = 752万円
役員の手取り: 600万円 - 50万円 - 60万円 - 90万円 = 400万円
パターン2: 役員報酬1,200万円の場合
会社の税負担:
- 課税所得:2,000万円 - 1,200万円 = 800万円
- 法人税(実効税率約23%、800万円以下は軽減税率):800万円 × 23% ≒ 184万円
- 社会保険料(会社負担):約140万円(上限あり)
役員個人の税負担:
- 所得税(給与所得控除後):約150万円
- 住民税:約120万円
- 社会保険料(個人負担):約140万円(上限あり)
合計税負担: 184万円 + 140万円 + 150万円 + 120万円 + 140万円 = 734万円
役員の手取り: 1,200万円 - 150万円 - 120万円 - 140万円 = 790万円
比較結果
| 項目 | 役員報酬600万円 | 役員報酬1,200万円 | |-----|----------------|------------------| | 法人税 | 462万円 | 184万円 | | 所得税 | 50万円 | 150万円 | | 住民税 | 60万円 | 120万円 | | 社会保険料(会社) | 90万円 | 140万円 | | 社会保険料(個人) | 90万円 | 140万円 | | 合計税負担 | 752万円 | 734万円 | | 役員手取り | 400万円 | 790万円 |
この例では、役員報酬を1,200万円にした方が、合計税負担が約18万円少なく、役員の手取りも多くなります。
役員報酬の最適化計算の手順
ステップ1: 会社の利益を予測
年間の売上と経費を予測し、役員報酬控除前の利益を計算します。
計算式:
役員報酬控除前利益 = 売上 - 経費(役員報酬以外)
ステップ2: 複数パターンで税負担を計算
役員報酬を様々な金額に設定し、それぞれのケースで税負担を計算します。
計算すべき項目:
- 法人税
- 所得税
- 住民税
- 社会保険料(会社負担・個人負担)
ステップ3: 最適な役員報酬額を決定
考慮すべきポイント:
- 合計税負担が最小になる金額
- 会社の資金繰りに無理がない金額
- 役員個人の生活費が確保できる金額
- 銀行融資への影響(利益が極端に少ないと融資が難しい)
ステップ4: 定期同額給与のルールを確認
決定した役員報酬額が、定期同額給与のルールに合致しているか確認します。
定期同額給与のルール
役員報酬を損金算入するには、定期同額給与の要件を満たす必要があります。
定期同額給与とは
定期同額給与の要件:
- 毎月同額であること
- 事業年度開始から3か月以内に決定すること
- 原則として年度途中で変更できない
例:
- 3月決算法人の場合、4月〜6月末までに役員報酬を決定
- 決定した金額を毎月同額で支給
年度途中で変更できる場合
例外的に変更が認められるケース:
-
役員の職制上の地位の変更
- 平取締役から代表取締役への昇格
- 常勤取締役から非常勤取締役への変更
-
役員の職務内容の重大な変更
- 新規事業の責任者に就任
- 海外子会社への出向
-
経営状況の著しい悪化
- 赤字の継続、売上の大幅減少
- 第三者との関係上、減額がやむを得ない場合
-
事業年度開始後3か月以内の変更
- 決算後、事業年度開始から3か月以内なら変更可能
違反した場合のペナルティ
定期同額給与の要件を満たさない場合、役員報酬が損金不算入となり、法人税が増額されます。
例:
- 年度途中で役員報酬を月50万円から70万円に増額(正当な理由なし)
- 増額分の20万円 × 増額後の月数分が損金不算入
- その分、法人税が増える
社会保険料の上限を考慮した最適化
社会保険料の上限
社会保険料(健康保険・厚生年金)には、標準報酬月額の上限があります。
標準報酬月額の上限(2024年時点):
- 健康保険:139万円
- 厚生年金:65万円
厚生年金の上限に達する月額報酬:
- 月額報酬が65万円を超えると、厚生年金保険料は頭打ち
年収換算:
- 月65万円 × 12か月 = 年収780万円
役員報酬が年収780万円を超えると、追加の報酬に対する厚生年金保険料は増えません。
社会保険料を考慮した最適化
年収780万円前後が一つの目安:
- それ以下:社会保険料の負担率が高い
- それ以上:追加の報酬に対する社会保険料負担が軽減
ただし、所得税は累進課税のため、役員報酬が高いほど税率も上がります。
役員報酬の変更手続き
定時株主総会での決議
役員報酬の決定・変更には、株主総会の決議が必要です。
手順:
- 定時株主総会を開催(決算後3か月以内)
- 役員報酬の総額または個別の金額を決議
- 議事録を作成・保管
議事録の記載例:
第○号議案 役員報酬改定の件
議長は、令和○年度の役員報酬を下記のとおりとしたい旨を述べ、その承認を求めたところ、満場一致をもってこれを承認可決した。
代表取締役 ○○○○ 月額 ○○万円
取締役 △△△△ 月額 △△万円
税務署への届出
役員報酬を変更しても、税務署への届出は原則不要です。ただし、以下の場合は届出が必要です。
届出が必要な場合:
- 事前確定届出給与を支給する場合
- 業績連動給与を支給する場合
社会保険の手続き
役員報酬を変更した場合、社会保険の標準報酬月額が変わる可能性があります。
手続き:
- 月額変更届(随時改定):報酬が大幅に変わった場合
- 算定基礎届:毎年7月に提出(定時決定)
月額変更届が必要な場合:
- 昇給・降給があり、変動月から3か月間の報酬平均が2等級以上変動した場合
役員報酬の最適化でよくある質問
Q1: 役員報酬はゼロにできますか?
A: 法律上は可能ですが、以下のデメリットがあります:
- 役員個人の収入がない(生活費が確保できない)
- 社会保険に加入できない(国民健康保険・国民年金になる)
- 将来の年金額が減る
Q2: 役員報酬を年度途中で減額できますか?
A: 原則できません。ただし、経営状況が著しく悪化した場合など、正当な理由があれば減額可能です。減額後の金額が損金算入されるかは、税務署の判断によります。
Q3: 役員賞与は経費になりますか?
A: 役員賞与を損金算入するには、「事前確定届出給与」として、事前に税務署に届け出る必要があります。届出をせずに支給した役員賞与は損金不算入です。
Q4: 役員報酬をゼロから増額する場合、いつから可能ですか?
A: 事業年度開始から3か月以内であれば、定期同額給与の要件を満たします。それ以降は、次の事業年度まで待つ必要があります。
Q5: 家族を役員にして報酬を払う場合の注意点は?
A:
- 実際に役員としての職務を行っている必要がある
- 報酬額は職務内容に見合った妥当な金額である必要がある
- 名目だけの役員で高額な報酬を支払うと、税務調査で否認される可能性がある
Q6: 役員報酬の最適化は自分でできますか?
A: 基本的な計算は可能ですが、以下の理由から税理士への相談をお勧めします:
- 法人税・所得税・社会保険料の正確な計算が複雑
- 定期同額給与のルールを守る必要がある
- 会社の将来計画、銀行融資、資金繰りなど総合的な判断が必要
役員報酬の最適化で考慮すべきその他の要素
1. 銀行融資への影響
利益がゼロに近い場合:
- 銀行融資の審査が厳しくなる
- 将来の融資を考えると、ある程度の利益を残すことも重要
2. 退職金の原資
会社に利益を残すメリット:
- 将来の役員退職金の原資となる
- 退職金は所得税の計算上、優遇される(退職所得控除)
3. 会社の内部留保
利益を残す理由:
- 設備投資の資金
- 将来の不測の事態への備え
- 会社の財務体質の強化
4. 配偶者控除・扶養控除への影響
配偶者を役員にする場合:
- 配偶者の役員報酬が103万円以下なら、配偶者控除が適用される
- 103万円超の場合、配偶者控除が使えなくなるが、配偶者特別控除が適用される場合がある
税理士に相談するメリット
役員報酬の最適化は、様々な要素を総合的に判断する必要があるため、税理士に相談することをお勧めします。
税理士に相談するメリット:
- 法人税・所得税・社会保険料の正確なシミュレーション
- 定期同額給与のルール遵守のアドバイス
- 将来の事業計画を踏まえた最適化
- 銀行融資への影響を考慮した提案
- 税務調査で否認されないための適正な報酬設定
役員報酬の設定を誤ると、余計な税金を払うことになったり、定期同額給与の要件違反で損金不算入になるリスクがあります。専門家のサポートを受けることで、適正かつ最適な役員報酬を設定できます。
まとめ:役員報酬は総合的な判断が必要
役員報酬の最適化は、法人税、所得税、社会保険料のバランスを考えて、合計税負担を最小化することが基本です。ただし、会社の資金繰り、銀行融資への影響、将来の退職金なども考慮する必要があります。
定期同額給与のルールにより、役員報酬は事業年度開始から3か月以内に決定し、年度途中での変更は原則できません。役員報酬の変更には株主総会の決議が必要です。
役員報酬の最適化は複雑な計算が必要なため、税理士に相談することをお勧めします。専門家のアドバイスを受けることで、適正な役員報酬を設定し、無駄な税負担を避けることができます。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な役員報酬の設定については、税理士に相談することをお勧めします。
