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決算対策と法人税節税の完全ガイド|北九州の税理士が教える実践方法

2025-10-20
  • 法人税
  • 税務実務

決算対策とは

決算対策とは、決算日までに実施する税負担の軽減や財務状況の改善のための施策です。法人税を適正な範囲で節税し、会社の資金繰りを改善することが目的です。

決算対策は、決算日の数か月前から計画的に進めることが重要です。決算日直前では選択肢が限られ、効果的な対策が打てないことがあります。

決算対策の目的

  • 法人税の節税
  • 資金繰りの改善
  • 財務体質の強化
  • 銀行評価の向上

決算対策を始める時期

  • 理想:決算日の6か月前から
  • 最低でも:決算日の3か月前から
  • 直前でもできる対策はある

決算対策の基本的な考え方

節税と利益のバランス

決算対策では、節税だけを優先するのではなく、会社の財務状況や将来の計画を考慮することが重要です。

節税のデメリット

  • 利益が減ると、銀行評価が下がる
  • 融資を受けにくくなる
  • 社会的信用が下がる可能性がある
  • 内部留保が増えない

節税すべきケース

  • 利益が十分に出ている
  • 当面、融資の予定がない
  • 資金繰りに余裕がある
  • 今後も安定した利益が見込める

利益を残すべきケース

  • 銀行融資を予定している
  • 上場や事業拡大を目指している
  • 赤字からの脱却を目指している
  • 社会的信用を高めたい

合法的な節税対策

税法の範囲内で、適正に税負担を軽減することが重要です。違法な脱税は絶対に行ってはいけません。

適法な節税

  • 税法上認められた特例の活用
  • 適切なタイミングでの費用計上
  • 制度を正しく理解した上での活用

違法な脱税

  • 架空経費の計上
  • 売上の除外
  • 証拠書類の偽造
  • 裏金の作成

決算前にできる節税対策

1. 役員報酬の最適化

役員報酬は、法人税と個人の所得税・住民税のバランスを考えて設定します。

役員報酬の税務ルール

役員報酬を損金(経費)として認めてもらうには、以下のいずれかの方法で支給する必要があります。

定期同額給与

毎月同額を支給する方法です。最も一般的な方法です。

ルール

  • 毎月同額を支給
  • 事業年度開始の日から3か月以内に決定
  • 期中での変更は原則不可

事前確定届出給与

役員賞与を支給する場合、事前に税務署に届け出る必要があります。

ルール

  • 株主総会等の決議日から1か月以内に税務署に届出
  • 届出どおりの金額と日に支給
  • 届出と異なる金額を支給すると、全額が損金不算入

業績連動給与

業績に応じて支給額が変動する方法です。上場企業など一定の要件を満たす法人のみが利用できます。

役員報酬シミュレーション

役員報酬の金額によって、法人税と個人の税負担がどう変わるかをシミュレーションします。

前提条件

  • 税引前利益:1,500万円
  • 役員:社長1名
  • 社長の他の所得:なし
  • 扶養家族:配偶者1名

パターン1:役員報酬0円

法人の課税所得:1,500万円
法人税等(実効税率33%):495万円
社長の所得税・住民税:0円
合計税額:495万円

パターン2:役員報酬600万円

法人の課税所得:900万円
法人税等(実効税率33%):297万円
社長の所得税・住民税:約50万円
合計税額:347万円

パターン3:役員報酬1,000万円

法人の課税所得:500万円
法人税等(実効税率33%):165万円
社長の所得税・住民税:約120万円
合計税額:285万円

パターン4:役員報酬1,500万円

法人の課税所得:0円
法人税等:0円
社長の所得税・住民税:約250万円
合計税額:250万円

シミュレーションの結果

役員報酬1,500万円の場合、合計税額が最も少なくなります。ただし、法人の利益が0円となり、内部留保が増えないため、融資の際に不利になる可能性があります。

最適な役員報酬の設定

税負担だけでなく、以下の要素も考慮して決定します。

  • 社会保険料の負担
  • 銀行融資の予定
  • 退職金の準備
  • 生活費の必要額

2. 役員賞与の活用

役員賞与を支給することで、法人税を節税できます。

事前確定届出給与の手続き

役員賞与を損金算入するには、事前に税務署に届出が必要です。

手続きの流れ

  1. 株主総会で役員賞与の支給を決議
  2. 決議日から1か月以内に税務署に「事前確定届出給与に関する届出書」を提出
  3. 届出どおりの日に届出どおりの金額を支給

注意点

  • 届出と1円でも異なると、全額が損金不算入
  • 支給日が1日でもずれると、全額が損金不算入
  • 届出はしたが実際には支給しなかった場合、損金不算入

役員賞与のメリット

資金繰りへの配慮

役員報酬は毎月同額を支給する必要がありますが、役員賞与は年1〜2回の支給で済むため、資金繰りに余裕がある時期に支給できます。

社会保険料の節約

役員賞与には健康保険料・厚生年金保険料がかかりますが、年間の上限があるため、役員報酬を抑えて賞与で支給することで、社会保険料を節約できる場合があります。

3. 減価償却費の活用

減価償却とは

固定資産(建物、機械、車両など)を取得した際、取得価額を一度に経費にするのではなく、耐用年数にわたって分割して経費にする方法です。

減価償却の節税効果

決算前に固定資産を購入することで、減価償却費を計上し、利益を圧縮できます。

決算日:3月31日 車両購入:3月1日 取得価額:600万円 耐用年数:6年 償却方法:定額法

年間減価償却費 = 600万円 ÷ 6年 = 100万円
当期の減価償却費 = 100万円 × 1か月/12か月 = 8.3万円

1か月分の減価償却費8.3万円を計上できます。

少額減価償却資産の特例

中小企業者(資本金1億円以下)は、30万円未満の減価償却資産を一括で経費にできます。

要件

  • 取得価額が30万円未満
  • 年間の合計額が300万円まで

決算日:3月31日 パソコン(25万円)を5台購入:3月15日 合計:125万円

当期の経費:125万円

全額を当期の経費にできます。

中古資産の活用

中古資産を購入した場合、耐用年数が短くなるため、減価償却費を多く計上できます。

中古資産の耐用年数の計算

耐用年数 = 法定耐用年数 - 経過年数 + 経過年数 × 20%

中古車(法定耐用年数6年)を購入 経過年数:4年

耐用年数 = 6年 - 4年 + 4年 × 20% = 2.8年 → 2年(端数切捨て)

新車の6年に対して、中古車は2年で償却できます。

4. 未払費用の計上

決算日までに確定している費用で、まだ支払っていないものは、未払費用として計上できます。

計上できる未払費用

  • 従業員の給与(締日と支払日がずれている場合)
  • 社会保険料
  • 水道光熱費
  • 地代家賃
  • 支払利息

給与締日:毎月末日 給与支払日:翌月10日 決算日:3月31日

3月分の給与(4月10日支払予定)を未払費用として計上できます。

注意点

未払費用として計上できるのは、決算日までに債務が確定しているものに限ります。まだ確定していない費用は計上できません。

5. 短期前払費用の活用

短期前払費用とは

前払費用のうち、支払日から1年以内にサービスの提供を受けるものは、支払時に全額を経費にできます。

活用例

家賃の年払い

決算月に、翌1年分の家賃を年払いすることで、全額を当期の経費にできます。

決算日:3月31日 月額家賃:30万円 3月末に翌年4月〜翌々年3月分の家賃を一括前払い

前払家賃:30万円 × 12か月 = 360万円
当期の経費:360万円

保険料の年払い

生命保険料や損害保険料も、1年分を前払いすることで、全額を当期の経費にできます。

注意点

  • 継続的に年払いする必要がある
  • 毎年同じ方法で処理する必要がある

6. 在庫の評価

在庫の評価方法

在庫の評価方法には、以下のような方法があります。

  • 最終仕入原価法
  • 先入先出法
  • 総平均法
  • 移動平均法

評価方法の変更

在庫の評価方法を変更することで、売上原価が変動し、利益が変わります。ただし、評価方法の変更には税務署への届出が必要です。

不良在庫の処分

不良在庫や陳腐化した在庫を廃棄することで、損失を計上できます。

手順

  1. 不良在庫をリストアップ
  2. 廃棄処分
  3. 廃棄証明書を取得(業者に依頼する場合)
  4. 廃棄損を計上

7. 貸倒損失の計上

回収不能な売掛金や貸付金は、貸倒損失として計上できます。

貸倒損失が認められる要件

法律上の貸倒れ

  • 債権が法的に消滅した場合(破産、民事再生など)

事実上の貸倒れ

  • 債務者の資産状況、支払能力等から全額回収不能と認められる場合

形式上の貸倒れ

  • 売掛債権について、継続的な取引の停止後1年以上経過(一定額以下のもの)

注意点

安易に貸倒損失を計上すると、税務調査で否認される可能性があります。客観的な証拠が必要です。

8. 固定資産の除却

使用しなくなった固定資産を除却することで、除却損を計上できます。

除却の手順

  1. 固定資産を廃棄または撤去
  2. 除却証明書を取得
  3. 帳簿から除却
  4. 除却損を計上

除却損の金額

除却損 = 帳簿価額(取得価額 - 減価償却累計額)

取得価額:500万円 減価償却累計額:300万円 帳簿価額:200万円

除却損 = 200万円

9. 決算賞与の支給

従業員に決算賞与を支給することで、経費を増やし、法人税を節税できます。

決算賞与を損金算入する要件

  1. 決算日までに全従業員に通知
  2. 決算日の翌日から1か月以内に支給
  3. 決算日までに未払費用として計上

決算日:3月31日 決算賞与総額:500万円 通知日:3月25日 支給日:4月20日

3月31日に未払費用として500万円を計上し、4月20日に支給すれば、当期の経費になります。

注意点

  • 必ず1か月以内に支給する必要がある
  • 通知は書面で行い、証拠を残す

10. 経営セーフティ共済(中小企業倒産防止共済)

経営セーフティ共済の掛金は、全額を経費にできます。

制度の概要

  • 掛金:月額5,000円〜20万円
  • 掛金総額の上限:800万円
  • 掛金は全額損金算入
  • 40か月以上掛ければ、解約時に全額戻ってくる

節税効果

決算月に、年間240万円(月額20万円×12か月分)を一括前納

当期の経費:240万円
法人税の節税額:240万円 × 33% = 79.2万円

注意点

  • 解約時に収益になるため、永続的な節税ではない
  • 解約のタイミングを計画的に検討する必要がある

11. 小規模企業共済

小規模企業共済は、個人事業主や中小企業の経営者・役員が加入できる退職金制度です。

掛金

  • 月額1,000円〜7万円
  • 年間最大84万円

税務上の取り扱い

  • 法人の経費にはならない
  • 個人の所得控除(小規模企業共済等掛金控除)として全額控除できる

メリット

  • 所得税・住民税を節税できる
  • 退職時や廃業時に共済金を受け取れる
  • 低金利で貸付を受けられる

12. 生命保険の活用

法人が契約者となり、経営者を被保険者とする生命保険に加入することで、保険料の一部または全部を経費にできます。

保険の種類と損金算入割合

定期保険

  • 保険料の全額または一部が損金算入

養老保険

  • 受取人が法人の場合:保険料の1/2が損金算入
  • 受取人が遺族の場合:保険料の全額が損金不算入

注意点

2019年の税制改正により、定期保険の損金算入割合が変更されました。最新のルールに従って処理する必要があります。

決算対策の注意点

1. 期末駆け込みの注意

決算日直前に慌てて経費を使うと、無駄な支出になる可能性があります。

避けるべき対策

  • 不要なものの購入
  • 過度な在庫の仕入れ
  • 実態のない経費の計上

2. 証拠書類の整備

税務調査に備えて、経費の証拠書類をしっかり保存しておく必要があります。

保存すべき書類

  • 請求書
  • 領収書
  • 契約書
  • 議事録
  • 稟議書

3. 税理士への相談

決算対策は、税法の知識が必要です。誤った処理をすると、税務調査で否認されるリスクがあります。税理士に相談しながら進めることをお勧めします。

北九州での決算対策

北九州市内の中小企業は、製造業、卸売業、小売業など多様な業種があり、それぞれに適した決算対策があります。

製造業の場合

  • 機械設備の減価償却
  • 在庫の評価
  • 研究開発費の活用

卸売業・小売業の場合

  • 在庫の適正化
  • 売掛金の管理
  • 決算セールの実施

サービス業の場合

  • 短期前払費用の活用
  • 人件費の最適化
  • IT投資の活用

税理士への相談

北九州市内には、決算対策に強い税理士事務所が多数あります。早めに相談することで、より効果的な対策を実施できます。

まとめ

決算対策は、法人税の節税と財務体質の改善を目的とした重要な施策です。役員報酬の最適化、減価償却費の活用、未払費用の計上、短期前払費用の活用など、様々な方法があります。

ただし、節税だけを優先するのではなく、会社の財務状況や将来の計画を考慮して、バランスの取れた対策を実施することが重要です。また、税法のルールを守り、適法な範囲で節税を行う必要があります。

北九州で決算対策をお考えの企業は、早めに税理士に相談し、計画的に進めることをお勧めします。税理士は、役員報酬のシミュレーションや具体的な節税対策の提案など、専門的なサポートを提供します。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な決算対策については、税理士にご相談ください。

現在弊社では、ZOOMを利用したオンラインによる面談を行っております。
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