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消費税申告の完全ガイド|北九州の税理士が届出からシミュレーションまで解説
2025-11-02
- 消費税
- 税務実務
消費税とは
消費税とは、商品やサービスの消費に対して課される税金です。消費者が最終的に負担しますが、事業者が国に納付する仕組みになっています。
現在の消費税率は10%(標準税率)ですが、食料品など一部の商品は8%(軽減税率)が適用されます。
消費税の仕組み
- 消費者が商品を購入する際、消費税を含めた金額を支払う
- 事業者は受け取った消費税を国に納付する
- 事業者は仕入れ時に支払った消費税を控除できる(仕入税額控除)
例
製造業者が卸売業者に商品を1,000円(税抜)で販売
販売価格:1,000円
消費税:100円(10%)
合計:1,100円
製造業者は、受け取った消費税100円から、仕入れ時に支払った消費税を差し引いた額を納付します。
課税事業者と免税事業者
消費税の納税義務があるかどうかは、以下の基準で判定されます。
課税事業者
課税事業者とは
消費税の納税義務がある事業者です。
課税事業者になる要件
- 基準期間の課税売上高が1,000万円を超える
- 特定期間の課税売上高が1,000万円を超える
- 「消費税課税事業者選択届出書」を提出した
基準期間とは
個人事業主:前々年 法人:前々事業年度
特定期間とは
個人事業主:前年1月1日〜6月30日 法人:前事業年度開始の日以後6か月の期間
免税事業者
免税事業者とは
消費税の納税義務がない事業者です。
免税事業者の要件
- 基準期間の課税売上高が1,000万円以下
- 特定期間の課税売上高が1,000万円以下
- 課税事業者選択届出書を提出していない
免税事業者のメリット
- 受け取った消費税を納付する必要がない
- 事務負担が軽減される
免税事業者のデメリット
- インボイス制度の導入により、取引先から敬遠される可能性がある
課税事業者の判定例
例1:個人事業主の場合
2025年の納税義務を判定
基準期間(2023年)の課税売上高:1,200万円
→ 課税事業者
例2:法人の場合
決算期:3月 2025年3月期の納税義務を判定
基準期間(2023年3月期)の課税売上高:900万円
→ 免税事業者(基準期間では免税)
特定期間(2024年4月1日〜9月30日)の課税売上高:1,100万円
→ 課税事業者(特定期間で課税)
消費税の計算方法
消費税の計算には、「本則課税」と「簡易課税」の2つの方法があります。
本則課税(原則課税)
計算方法
納付税額 = 売上に係る消費税額 - 仕入に係る消費税額
仕入税額控除
仕入れや経費の支払い時に支払った消費税を、売上に係る消費税から控除できます。
例
売上高(税抜):5,000万円 売上に係る消費税:500万円 仕入高・経費(税抜):3,500万円 仕入に係る消費税:350万円
納付税額 = 500万円 - 350万円 = 150万円
本則課税のメリット
- 仕入れや設備投資が多い場合、納税額が少なくなる
- 還付を受けられる可能性がある
本則課税のデメリット
- 会計処理が複雑
- 帳簿の保存要件が厳しい(インボイス制度)
簡易課税
簡易課税とは
みなし仕入率を使って、簡易的に納付税額を計算する方法です。
適用要件
- 基準期間の課税売上高が5,000万円以下
- 「消費税簡易課税制度選択届出書」を事前に提出
計算方法
納付税額 = 売上に係る消費税額 - (売上に係る消費税額 × みなし仕入率)
みなし仕入率
| 事業区分 | みなし仕入率 | 主な業種 | |---------|------------|---------| | 第一種事業 | 90% | 卸売業 | | 第二種事業 | 80% | 小売業 | | 第三種事業 | 70% | 製造業、建設業、農業など | | 第四種事業 | 60% | 飲食店業、その他の事業 | | 第五種事業 | 50% | サービス業、運輸通信業、金融業 | | 第六種事業 | 40% | 不動産業 |
例:小売業(第二種事業)
売上高(税抜):4,000万円 売上に係る消費税:400万円 みなし仕入率:80%
みなし仕入税額 = 400万円 × 80% = 320万円
納付税額 = 400万円 - 320万円 = 80万円
簡易課税のメリット
- 計算が簡単
- 事務負担が軽減される
- 実際の仕入率がみなし仕入率より低い場合、納税額が少なくなる
簡易課税のデメリット
- 実際の仕入率がみなし仕入率より高い場合、納税額が多くなる
- 設備投資をしても仕入税額控除が増えない
- 還付を受けられない
本則課税と簡易課税の選択
どちらが有利かは、事業の内容によります。
本則課税が有利なケース
- 仕入率が高い
- 大きな設備投資を予定している
- 還付を受けたい
簡易課税が有利なケース
- 仕入率が低い(みなし仕入率より低い)
- 事務負担を軽減したい
- 売上高が5,000万円以下
選択のタイミング
簡易課税を選択する場合、適用を受けようとする課税期間の開始日の前日までに、「消費税簡易課税制度選択届出書」を提出する必要があります。
消費税の届出
消費税に関する届出には、様々な種類があります。適切なタイミングで届出をしないと、不利益を被る可能性があります。
主な届出書の種類
消費税課税事業者選択届出書
免税事業者が、あえて課税事業者になることを選択する届出書です。
提出時期
- 適用を受けようとする課税期間の開始日の前日まで
提出する理由
- 大きな設備投資を予定しており、消費税の還付を受けたい
- インボイス発行事業者になる必要がある
消費税課税事業者選択不適用届出書
課税事業者の選択をやめて、免税事業者に戻る届出書です。
提出時期
- 選択をやめようとする課税期間の開始日の前日まで
注意点
- 課税事業者を選択した後、2年間は免税事業者に戻れない
- 簡易課税を選択している場合も同様
消費税簡易課税制度選択届出書
簡易課税を選択する届出書です。
提出時期
- 適用を受けようとする課税期間の開始日の前日まで
消費税簡易課税制度選択不適用届出書
簡易課税をやめて、本則課税に戻る届出書です。
提出時期
- 選択をやめようとする課税期間の開始日の前日まで
注意点
- 簡易課税を選択した後、2年間は本則課税に戻れない
適格請求書発行事業者の登録申請書
インボイス発行事業者になるための届出書です。
提出時期
- 登録を受けようとする日の15日前まで
消費税課税期間特例選択・変更届出書
課税期間を1か月または3か月に短縮する届出書です。
提出時期
- 適用を受けようとする課税期間の開始日の前日まで
利用するケース
- 設備投資により還付が見込まれ、早期に還付を受けたい
届出の提出先
法人
- 納税地の所轄税務署
個人事業主
- 住所地の所轄税務署
北九州市の場合
- 小倉税務署(小倉北区、小倉南区、門司区)
- 八幡税務署(八幡東区、八幡西区、戸畑区、若松区)
インボイス制度
2023年10月から、インボイス制度(適格請求書等保存方式)が開始されました。
インボイス制度とは
制度の概要
仕入税額控除を受けるためには、適格請求書(インボイス)の保存が必要になる制度です。
適格請求書(インボイス)とは
以下の事項が記載された請求書です。
- 発行事業者の氏名または名称
- 取引年月日
- 取引内容
- 税率ごとに区分した合計額及び適用税率
- 消費税額
- 書類の交付を受ける事業者の氏名または名称
- 適格請求書発行事業者の登録番号
適格請求書発行事業者
インボイスを発行できるのは、適格請求書発行事業者として登録した課税事業者のみです。
免税事業者への影響
免税事業者は、インボイスを発行できません。そのため、取引先が仕入税額控除を受けられず、取引を敬遠される可能性があります。
免税事業者の選択肢
- 課税事業者になり、インボイス発行事業者として登録する
- 免税事業者のまま、取引先と交渉する(値下げなど)
- 免税事業者のまま、一般消費者向けの事業に特化する
経過措置
インボイス制度開始後も、一定期間は免税事業者からの仕入れについて、一部の仕入税額控除が認められます。
経過措置の内容
- 2023年10月〜2026年9月:80%控除可能
- 2026年10月〜2029年9月:50%控除可能
- 2029年10月以降:控除不可
消費税のシミュレーション
消費税の納税額をシミュレーションすることで、本則課税と簡易課税のどちらが有利かを判断できます。
シミュレーション例:小売業
前提条件
- 売上高(税抜):3,000万円
- 売上に係る消費税:300万円
- 仕入高・経費(税抜):2,100万円
- 仕入に係る消費税:210万円
- 業種:小売業(第二種事業、みなし仕入率80%)
本則課税の場合
納付税額 = 300万円 - 210万円 = 90万円
簡易課税の場合
みなし仕入税額 = 300万円 × 80% = 240万円
納付税額 = 300万円 - 240万円 = 60万円
結論
簡易課税の方が30万円有利です。
シミュレーション例:製造業(設備投資あり)
前提条件
- 売上高(税抜):4,000万円
- 売上に係る消費税:400万円
- 仕入高・経費(税抜):2,800万円
- 仕入に係る消費税:280万円
- 設備投資(税抜):1,000万円
- 設備投資に係る消費税:100万円
- 業種:製造業(第三種事業、みなし仕入率70%)
本則課税の場合
納付税額 = 400万円 - (280万円 + 100万円) = 20万円
簡易課税の場合
みなし仕入税額 = 400万円 × 70% = 280万円
納付税額 = 400万円 - 280万円 = 120万円
結論
本則課税の方が100万円有利です。設備投資がある場合、簡易課税では不利になります。
消費税申告の流れ
ステップ1:課税売上高と課税仕入高の集計
会計帳簿から、課税売上高と課税仕入高を集計します。
課税売上高
- 10%対象の売上
- 8%対象の売上(軽減税率)
課税仕入高
- 10%対象の仕入・経費
- 8%対象の仕入・経費
非課税取引
- 土地の売買
- 住宅の貸付
- 有価証券の譲渡
- 預金利息
ステップ2:消費税額の計算
本則課税または簡易課税により、納付税額を計算します。
ステップ3:申告書の作成
消費税申告書を作成します。
主な申告書
- 消費税及び地方消費税の申告書
- 付表(本則課税の場合:付表2、簡易課税の場合:付表5)
- 課税売上割合・控除対象仕入税額等の計算表
ステップ4:申告書の提出と納税
提出期限
- 法人:課税期間の末日の翌日から2か月以内
- 個人事業主:翌年3月31日
提出先
- 所轄税務署
納税方法
- 金融機関での納付
- ダイレクト納付
- クレジットカード納付
- コンビニ納付(30万円以下)
ステップ5:中間申告と納付(該当する場合)
前年の納税額が48万円を超える場合、中間申告が必要です。
中間申告の回数
- 前年の納税額48万円超400万円以下:年1回
- 前年の納税額400万円超4,800万円以下:年3回
- 前年の納税額4,800万円超:年11回
北九州での消費税申告サポート
北九州市内の事業者が消費税申告を行う際、税理士のサポートを受けることで、以下のメリットがあります。
税理士に依頼するメリット
正確な申告
消費税の計算は複雑であり、誤りがあると追徴課税のリスクがあります。税理士が正確に計算し、申告書を作成します。
適切な届出のアドバイス
課税事業者選択や簡易課税選択など、適切なタイミングで届出を行うことで、税負担を最適化できます。
本則課税と簡易課税の有利判定
シミュレーションにより、どちらが有利かを判定し、最適な方法を選択します。
インボイス制度への対応
インボイス発行事業者の登録手続きや、インボイスの発行・保存方法について、適切なアドバイスを提供します。
税務調査への対応
消費税の税務調査が入った場合、税理士が立ち会い、対応します。
税理士への依頼費用
消費税申告の報酬
- 年商1,000万円未満:3〜5万円
- 年商3,000万円未満:5〜10万円
- 年商5,000万円未満:10〜15万円
- 年商1億円未満:15〜20万円
法人税申告と併せて依頼する場合、セット料金が適用されることが多いです。
まとめ
消費税申告は、課税事業者に義務付けられた手続きです。課税事業者の判定、本則課税と簡易課税の選択、適切な届出の提出など、様々な判断が必要です。
インボイス制度の導入により、免税事業者にも影響が出ています。課税事業者になるかどうか、慎重に判断する必要があります。
北九州で消費税申告をお考えの事業者は、税理士のサポートを受けることで、正確な申告、適切な届出、税負担の最適化など、多くのメリットを得られます。消費税申告や届出について不明な点がある場合は、早めに税理士に相談することをお勧めします。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な消費税申告や届出については、税理士にご相談ください。
