BLOGブログ

年間休日を増やすと残業代の単価が上がる?|所定労働日数・休日日数と割増賃金の関係を北九州の税理士が解説

公開日

  • 労務
  • 経営

求人票に「年間休日 120 日」と書ける会社と「年間休日 105 日」の会社では、応募者の反応が大きく違うといわれます。採用や定着のために所定休日を増やすことを検討する経営者の方は、北九州エリアでも増えています。

ところが、休日を増やすと月給が同じでも残業代の単価が上がるという点は、意外と知られていません。所定休日が増えると年間の所定労働時間が減り、割増賃金の計算に使う 1 時間あたりの賃金額が上昇するためです。

本記事では、中小企業の労務・人件費の相談を受けている税理士の視点から、労働日数と休日日数の考え方、割増賃金への影響、休日を増やす際に確認しておきたい点を整理して解説します。

法定労働時間と年間の労働時間の上限

会社が従業員を働かせてよい時間には、労働基準法で上限があります。これを法定労働時間といい、原則として 1 日 8 時間、1 週 40 時間を超えて労働させてはいけません。

週 40 時間という上限を 1 年に換算すると、理論上の年間の労働時間の上限が計算できます。

年の区分 年間の労働時間の上限(理論値)
通常の年(365 日) 40 時間 ÷ 7 日 × 365 日 = 約 2,085 時間
うるう年(366 日) 40 時間 ÷ 7 日 × 366 日 = 約 2,091 時間

この数字は週 40 時間を前提にした年間換算の理論値であり、実際の会社では就業規則で定める所定労働時間がこの範囲内に収まっている必要があります。

年間の所定労働日数と休日日数の関係

就業規則で定める 1 日の労働時間(所定労働時間)を 8 時間とした場合、年間の労働時間の上限を 8 時間で割れば、1 年間に働かせることができる日数の上限が出ます。

年の区分 年間の所定労働日数の上限
通常の年 2,085 時間 ÷ 8 時間 = 260 日
うるう年 2,091 時間 ÷ 8 時間 = 261 日

この労働日数を 1 年の日数から差し引くと、最低限必要な年間の休日日数が分かります。

年の区分 年間の休日日数(最低限)
通常の年 365 日 − 260 日 = 105 日
うるう年 366 日 − 261 日 = 105 日

求人票でよく見る「年間休日 105 日」という数字は、1 日 8 時間労働の会社が週 40 時間の上限を守るために最低限必要な休日数です。これより休日が少ないと、所定労働時間が法定労働時間を超えてしまいます。なお、変形労働時間制を採用している場合は計算方法が異なります。

1 日の所定労働時間が 7 時間 30 分の会社であれば、年間の所定労働日数の上限は 2,085 時間 ÷ 7.5 時間 = 278 日となり、休日は 87 日でも法定の範囲内に収まります。1 日の労働時間と休日日数はセットで考える必要があります。

割増賃金の計算の仕組み

時間外労働、休日労働、深夜労働をさせた場合、会社は割増賃金を支払う必要があります。割増賃金は次の算式で計算します。

1 時間あたりの賃金額 × 時間外労働・休日労働・深夜労働の時間数 × 割増賃金率

割増賃金率は、時間外労働が 25 % 以上(月 60 時間超は 50 % 以上)、法定休日労働が 35 % 以上、深夜労働が 25 % 以上です。

月給制の 1 時間あたりの賃金額

月給制の場合、1 時間あたりの賃金額は次の算式で計算します。

1 ヶ月の所定賃金額 ÷ 1 ヶ月の平均所定労働時間数

1 ヶ月の平均所定労働時間数は、1 年間の所定労働時間数を 12 ヶ月で割って求めます。年間の所定労働日数が 260 日で 1 日 8 時間の会社であれば、年間の所定労働時間は 2,080 時間、1 ヶ月の平均所定労働時間は 2,080 ÷ 12 = 約 173.3 時間です。

月給 30 万円(割増賃金の基礎から除外できる手当を除いた額)の従業員であれば、1 時間あたりの賃金額は 30 万円 ÷ 173.3 時間 = 約 1,731 円となり、時間外労働 1 時間あたりの割増賃金は 1,731 円 × 1.25 = 約 2,164 円です。

休日を増やすと割増賃金の単価が上がる理由

所定労働時間を 1 日 8 時間のまま休日だけ増やすと、所定労働日数が減ります。その結果、1 年間の所定労働時間数が減り、1 ヶ月の平均所定労働時間数も減少します。

月給が固定であれば、割る数である平均所定労働時間が減ることで、1 時間あたりの賃金額が上がります。1 時間あたりの賃金額が上がれば、割増賃金の単価も上がります。

年間休日 1 ヶ月の平均所定労働時間と時間あたり賃金(月給 30 万円)
105 日(労働日 260 日) 173.3 時間、1 時間あたり約 1,731 円
110 日(労働日 255 日) 170.0 時間、1 時間あたり約 1,765 円
120 日(労働日 245 日) 163.3 時間、1 時間あたり約 1,837 円
125 日(労働日 240 日) 160.0 時間、1 時間あたり約 1,875 円

年間休日を 105 日から 120 日に増やすと、1 時間あたりの賃金額は約 6 % 上がります。月 20 時間の時間外労働がある従業員であれば、時間外の割増賃金は月 43,280 円から 45,925 円となり、月 2,600 円ほど、年間で 3 万円ほどの増加です。従業員が 20 人いれば年間 60 万円の人件費増になります。

休日を増やせば所定労働日数が減るため、同じ業務量をこなすには時間外労働が増える可能性もあります。単価の上昇と時間数の増加が重なると、人件費への影響はさらに大きくなります。

休日を増やす際に確認しておきたいこと

所定休日の増加は、従業員の満足度や採用力を高める一方で、人件費や業務体制に影響します。検討の際に確認しておきたい点を整理します。

人件費のシミュレーション

現在の時間外労働の実績をもとに、休日を増やした場合の割増賃金の増加額を試算します。従業員ごとの月給と時間外労働時間の平均から、上記の表のように 1 時間あたりの賃金額の変化を計算すれば、年間の影響額を見積もれます。

同時に、労働日数の減少によって売上や生産量に影響が出ないかも確認します。休日を増やしても業務量が変わらなければ、時間外労働の増加として跳ね返ります。

就業規則と労働条件の変更手続き

所定休日の日数は就業規則の必要記載事項です。休日を増やす場合は就業規則を変更し、労働基準監督署へ届け出る必要があります。休日を増やす変更は従業員にとって有利な変更であるため手続き上の争いは生じにくいですが、年間カレンダーで休日を定めている会社は、カレンダーの作成と周知も必要です。

賃金規程の見直し

1 ヶ月の平均所定労働時間数は、賃金規程や就業規則で定めていることがあります。休日日数を変更した場合は、この数値もあわせて変更しなければ、割増賃金の計算が実態と合わなくなります。給与計算ソフトに登録している月平均所定労働時間の設定変更も忘れないようにしてください。

段階的な導入

年 5 日ずつなど、段階的に増やす方法もあります。人件費や業務への影響を確認しながら進められるため、中小企業では現実的な選択肢です。

割増賃金の基礎から除外できる手当

時間あたりの賃金額を計算する際、家族手当、通勤手当、別居手当、子女教育手当、住宅手当、臨時に支払われた賃金、1 ヶ月を超える期間ごとに支払われる賃金は、割増賃金の基礎から除外できます。

ただし、名称が家族手当や住宅手当であっても、扶養家族の人数や住宅費用に関係なく一律に支給しているものは除外できません。除外できるかどうかは名称ではなく実態で判断されます。手当の支給基準を確認しておいてください。

当事務所の考え方

休日を増やす相談を受けたときは、まず直近 1 年の時間外労働の実績から割増賃金の増加額を試算し、そのうえで「休日を増やす」「有給休暇の取得を促す」「所定労働時間を短くする」を比較しています。人件費への影響は、休日を増やす形が最も大きくなります。

年間休日 105 日の会社が採用のために 110 日へ増やす場合、月給制の従業員の残業単価は約 2 % 上がります。この程度なら業務の見直しで吸収できることが多いので、5 日刻みで様子を見ながら進める形をお勧めしています。

よくある質問

労働日数・休日日数と割増賃金について、当事務所によく寄せられる質問をまとめます。

Q1. 年間休日が 105 日未満の会社は違法になりますか

1 日 8 時間労働の場合、年間休日が 105 日未満だと所定労働時間が週 40 時間の法定労働時間を超えるため、原則として問題があります。ただし、1 日の所定労働時間が 8 時間未満であれば必要な休日日数は少なくなり、変形労働時間制を採用している場合は別の基準で判断します。自社の 1 日の労働時間と休日日数の組み合わせを確認してください。

Q2. 休日を増やしても月給を下げれば人件費は変わりませんか

休日を増やしたことを理由に月給を下げるのは、従業員にとって不利益な変更です。原則として従業員の合意がないとできません。合意なく一方的に引き下げると争いの原因になります。人件費を抑えたい場合は、月給を維持したまま時間外労働を減らす業務改善を優先する方が現実的です。

Q3. 祝日を休日にしている会社で祝日の数が年によって変わる場合はどうなりますか

祝日の数が年によって異なると、年間の所定労働日数も年ごとに変わります。多くの会社では年間カレンダーを毎年作成し、その年の所定労働日数と月平均所定労働時間を計算して割増賃金の単価を決めています。年によって単価が変わる点を給与計算に反映してください。

Q4. パートタイマーの時給には影響がありますか

時給制の従業員は、時給がそのまま 1 時間あたりの賃金額になるため、休日日数の変更による単価への影響はありません。影響を受けるのは月給制の従業員です。ただし、休日が増えて労働日数が減れば、時給制の従業員の月収は減ります。収入面の説明をしておいてください。

Q5. 年間休日を増やす代わりに有給休暇の取得を促す方法はどうですか

年次有給休暇の取得は所定労働日を休むものであり、所定休日を増やすわけではないため、割増賃金の単価には影響しません。年 5 日の取得義務もあるため、有給休暇の計画的付与制度を活用して取得を促す方法は、人件費への影響を抑えながら休みを増やす選択肢のひとつです。

Q6. 固定残業代を導入している場合、休日を増やすとどうなりますか

固定残業代は、あらかじめ定めた時間数分の割増賃金を毎月定額で支払う仕組みです。休日を増やして 1 時間あたりの賃金額が上がると、同じ固定残業代でカバーできる時間外労働の時間数が減ります。たとえば月 30 時間分として設定していた固定残業代が、単価の上昇によって 28 時間分にしか相当しなくなることがあります。固定残業代の金額と対応する時間数を再計算し、実際の時間外労働が固定分を超えた場合は差額を支払う必要があります。

休日を増やす前に単価の変化を試算する

1 日 8 時間労働の会社では、週 40 時間の法定労働時間を守るために年間 105 日の休日が最低限必要です。所定休日を増やすと年間の所定労働時間が減り、月給が同じであれば 1 時間あたりの賃金額が上がるため、割増賃金の単価も上昇します。

休日の増加は採用や定着に効果がある一方で、人件費への影響を事前に試算し、就業規則や賃金規程、給与計算ソフトの設定を合わせて見直す必要があります。当事務所では、北九州エリアの中小企業の皆様に、人件費のシミュレーションを含めた経営面からのサポートを行っています。労働条件の見直しに伴う人件費の試算や、就業規則の変更に関する社会保険労務士との連携についても、お気軽にご相談ください。

現在弊社では、ZOOMを利用したオンラインによる面談を行っております。
© 税理士 富下会計事務所