BLOGブログ
ミニマムタックスの改正|令和 9 年分から特別控除額 1.65 億円・税率 30 % へ、対象になりやすいケースを北九州の税理士が解説
公開日
- 所得税
- 税務実務
会社を売却した年や、長年保有していた不動産や株式をまとめて売却した年は、所得が一時的に数億円規模になることがあります。こうした分離課税の所得が多い場合に生じる税負担の不公平を是正するために導入されたのが、ミニマムタックスと呼ばれる制度です。
この制度が令和 8 年度税制改正で見直され、令和 9 年分から対象者が広がり、税負担が増えることが予想されています。事業承継で自社株式を売却する予定の経営者や、大きな不動産の売却を検討している方にとっては、売却のタイミングによって税額が変わる可能性がある改正です。
本記事では、北九州エリアで経営者や資産家の税務をサポートしている税理士の視点から、ミニマムタックスの仕組みと改正の内容、あわせて進んでいる金融所得と医療保険料の見直しについて整理して解説します。
ミニマムタックスとは
正式には「極めて高い水準の所得に対する負担の適正化」と呼ばれる制度で、昨年の令和 7 年分の所得税から適用されています。個人を対象とした制度です。
所得税は、給与や事業所得などの総合課税の所得には最高 45 % の累進税率が適用されますが、上場株式の売却益や配当、土地建物の売却益などの分離課税の所得には一律 15 %(住民税とあわせて 20 %)の税率が適用されます。このため、所得の大部分が分離課税の所得である方は、所得が増えるほど全体の税負担率がかえって下がるという現象が生じていました。
ミニマムタックスは、この不公平を是正するために、一定の計算式で算出した税額が通常の所得税額を上回る場合に、その差額を追加で申告納税する仕組みです。
計算の仕組み
ミニマムタックスの計算式は次のとおりです。
(合計所得金額 − 特別控除額)× 税率
この計算で求めた金額が、通常の方法で計算した所得税額を上回る場合に、その差額を追加で納付します。下回る場合は追加の納税はありません。
ここでいう合計所得金額には、株式の配当などで申告不要制度を適用した所得も含めて計算します。ただし、預貯金の利子などの源泉分離課税の対象となる所得や、NISA 口座の非課税所得は含めません。集計の際に区分してください。
令和 8 年度税制改正の内容
令和 9 年分から、特別控除額と税率が次のように見直されます。
| 項目 | 改正前(令和 7 年分・令和 8 年分) |
|---|---|
| 特別控除額 | 3.3 億円 |
| 税率 | 22.5 % |
| 項目 | 改正後(令和 9 年分から) |
|---|---|
| 特別控除額 | 1.65 億円 |
| 税率 | 30 % |
特別控除額が半分に引き下げられ、税率が引き上げられることで、これまで対象外だった所得水準の方も対象に含まれるようになり、対象者の税負担も増えることになります。
改正の影響を数字で確認する
分離課税の所得のみがある方を例に、数字を当てはめてみます。合計所得金額が 3 億円で、そのすべてが上場株式の売却益(税率 15 %)だった場合を想定します。
| 区分 | 計算 |
|---|---|
| 通常の所得税額 | 3 億円 × 15 % = 4,500 万円 |
| 改正前のミニマムタックスの計算 | (3 億円 − 3.3 億円)はマイナスのため追加納税なし |
| 改正後のミニマムタックスの計算 | (3 億円 − 1.65 億円)× 30 % = 4,050 万円 |
改正後でも計算結果 4,050 万円は通常の所得税額 4,500 万円を下回るため、この例では追加納税は生じません。しかし、合計所得金額が 5 億円になると次のようになります。
| 区分 | 計算 |
|---|---|
| 通常の所得税額 | 5 億円 × 15 % = 7,500 万円 |
| 改正前のミニマムタックスの計算 | (5 億円 − 3.3 億円)× 22.5 % = 3,825 万円(追加納税なし) |
| 改正後のミニマムタックスの計算 | (5 億円 − 1.65 億円)× 30 % = 1 億 50 万円(差額 2,550 万円を追加納税) |
改正前は追加納税がなかった所得水準でも、改正後は 2,000 万円を超える追加負担が生じる可能性があります。分離課税の所得の割合が高いほど、この影響は大きくなります。
対象になりやすいケース
ミニマムタックスの対象になるのは、合計所得金額が特別控除額を大きく超え、かつ分離課税の所得の割合が高い方です。北九州エリアでも、次のようなケースが該当します。
- 事業承継や M&A で自社株式を売却し、数億円規模の譲渡所得が生じる
- 長年保有していた収益不動産や土地をまとめて売却する
- 上場株式を大量に保有しており、一度に売却して利益を確定する
- 上場株式の配当を毎年多額に受け取っている
特に自社株式の売却は、創業者にとって一生に一度の大きな取引であり、売却年の所得が数億円になることは珍しくありません。令和 8 年分までに売却するか、令和 9 年分以降になるかで税額が変わる可能性があるため、事業承継のスケジュールを検討する際には改正の適用時期を考慮する必要があります。
金融所得と医療保険料の見直し
税制の改正とあわせて、医療保険の分野でも金融所得の取扱いが見直されています。現行の医療保険制度では、金融所得が保険料や窓口負担割合の判定に反映されるかどうかが、確定申告の有無によって異なる状況にあります。
たとえば、特定口座(源泉徴収あり)で得た上場株式の売却益は、確定申告をしなければ国民健康保険や後期高齢者医療の保険料の計算に含まれませんが、確定申告をすると含まれます。同じ収入水準でも申告の有無で保険料に差が生じることが、公平性の観点から課題とされてきました。
後期高齢者医療制度から見直しが始まる
2026 年 5 月 29 日に成立した医療保険制度改正法により、まず 75 歳以上の医療制度について、確定申告の有無にかかわらず金融所得を保険料や窓口負担割合に反映する仕組みが導入されることになりました。
金融機関などが税務署に提出する法定調書をオンラインで提出することで金融所得を把握し、それを保険料などに反映する方法です。厚生労働省は、法律の公布後 2 〜 3 年程度でオンライン提出を義務化し、そこから 1 年 8 ヶ月程度で保険料などへの反映を始める想定を示しています。
| 課税の区分 | 現行制度での保険料等への反映 |
|---|---|
| 総合課税(確定申告必須) | 反映される |
| 申告分離課税(確定申告必須) | 反映される |
| 申告不要を選択できる所得(特定口座の源泉徴収ありなど) | 申告すれば反映、申告しなければ反映されない |
| 源泉分離課税(預貯金の利子など) | 反映されない |
| NISA 口座の所得 | 反映されない |
この見直しは、当面は後期高齢者医療制度が対象ですが、将来的には国民健康保険や介護保険にも広がる可能性があります。金融所得に対する税と医療保険の考え方が変わりつつあります。資産運用や資産の売却を考える際には、税額に加えて保険料への影響も見ておいてください。
早めに準備しておきたいこと
ミニマムタックスの改正と金融所得の医療保険への反映は、いずれも将来の負担に関わる内容です。該当する可能性がある方は、次の点を早めに整理しておくことをおすすめします。
資産売却のスケジュールの検討
自社株式や不動産の売却を予定している場合は、売却年の合計所得金額を試算し、令和 8 年分と令和 9 年分以降のどちらで実行するかによる税額の違いを確認します。売却の相手方との交渉や手続きには時間がかかるため、余裕を持って検討を始める必要があります。
所得の分散の検討
一度に大きな所得が生じると特別控除額を超えやすくなるため、複数年に分けて売却する、配当と売却益のバランスを考えるなど、所得を分散する方法が検討できることがあります。ただし、取引の実態を伴わない形だけの分散は認められないため、税理士と相談しながら進めてください。
現状の試算
現在の資産と将来の売却予定をもとに、ミニマムタックスの対象になるかどうか、なる場合の追加税額はいくらかを試算しておくと、対策の要否を判断できます。早い段階での状況整理と試算が、有効な対策につながります。
当事務所の考え方
自社株式の売却を検討している経営者の方には、売却年の合計所得金額を仮置きして、改正前と改正後の税額を並べた試算表をお渡ししています。数億円規模の売却では、実行年の違いで数千万円の差が出ることがあり、売却価格の交渉と同じくらい時期の検討が重要です。
一方で、税負担だけを理由に売却を急ぐことはお勧めしていません。買い手の選定や従業員への説明が不十分なまま進めると、売却後の事業に影響します。
よくある質問
ミニマムタックスと金融所得の見直しについて、当事務所によく寄せられる質問をまとめます。
Q1. 給与所得だけで年収が高い場合もミニマムタックスの対象になりますか
給与所得は総合課税で最高 45 % の税率が適用されるため、通常の所得税額がミニマムタックスの計算結果を上回ることがほとんどです。給与所得だけの方が対象になるケースはまれです。対象になりやすいのは、分離課税の所得の割合が高い方です。
Q2. 令和 8 年中に株式を売却すれば改正前の基準が適用されますか
令和 8 年分の所得については、改正前の特別控除額 3.3 億円と税率 22.5 % で計算します。改正後の基準は令和 9 年分の所得から適用されます。ただし、売却の時期は売却価格や事業の状況も含めて判断してください。
Q3. ミニマムタックスの追加税額はどのように申告しますか
所得税の確定申告書に、ミニマムタックスの計算に関する明細書を添付して申告します。申告不要制度を選択した配当なども合計所得金額に含めて計算するため、通常の確定申告よりも集計する情報が増えます。該当する可能性がある方は、早めに税理士へ相談してください。
Q4. NISA 口座の利益はミニマムタックスの計算に含まれますか
含まれません。NISA 口座の非課税所得はミニマムタックスの合計所得金額から除かれます。同様に、預貯金の利子などの源泉分離課税の所得も含まれません。
Q5. 後期高齢者医療制度への金融所得の反映はいつから始まりますか
厚生労働省の想定では、法律の公布後 2 〜 3 年程度で法定調書のオンライン提出を義務化し、そこから 1 年 8 ヶ月程度で反映を始めるとされています。具体的な開始時期は今後の政省令で定められるため、続報を確認する必要があります。
Q6. 住民税にもミニマムタックスはありますか
ミニマムタックスは所得税の制度であり、住民税には同様の仕組みはありません。ただし、分離課税の所得には住民税 5 % が別途かかるため、資産売却の税負担を試算する際は所得税、復興特別所得税、住民税、そしてミニマムタックスの追加税額をあわせて確認する必要があります。
数億円規模の売却は実行年で税額が変わる
ミニマムタックスは、分離課税の所得が多い個人に追加の税負担を求める制度で、令和 8 年度税制改正により令和 9 年分から特別控除額が 1.65 億円、税率が 30 % に見直されます。自社株式や不動産の売却で数億円規模の所得が生じる方は、売却のタイミングによって税額が変わる可能性があります。
あわせて、後期高齢者医療制度では確定申告の有無にかかわらず金融所得を保険料に反映する仕組みが導入される予定であり、金融所得に対する税と保険料の考え方が変わりつつあります。当事務所では、北九州エリアの経営者や資産家の皆様に、事業承継や資産売却に伴う税額の試算と対策のご提案を行っています。早めの状況整理をご希望の方は、お気軽にご相談ください。
