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2026 年の賃金改定状況と大卒初任給|賃上げ実施は 52.5 %、平均改定率 4.3 %、初任給 26 万円の実態から考える中小企業の賃金設計を北九州の税理士が解説
公開日
- 経営
- 労務
最低賃金の引き上げや大企業の大幅な賃上げが報じられるなか、「うちはどのくらい上げるべきか」と悩む中小企業の経営者の方は多いと思います。賃上げは従業員の定着と採用に関わります。一方で、人件費と社会保険料の負担は確実に増えます。
2026 年 7 月に公表された厚生労働省の調査では、常用労働者 30 人未満の小規模事業所における今年の賃金改定状況がまとめられています。あわせて、6 月に作成された新規学卒者の初任給情報からは、大学卒の初任給が産業別にどの水準にあるかが分かります。
本記事では、北九州エリアで中小企業の人件費と経営の相談を受けている税理士の視点から、これらのデータと、賃金を決める際に考慮したい人件費・税務のポイントを整理して解説します。
調査の概要
賃金改定状況については、厚生労働省の「令和 8 年賃金改定状況調査結果」を参照します。常用労働者数が 30 人未満の企業に属する民営事業所から、都道府県別、産業別、事業所規模別に層化無作為抽出により選定した 16,541 事業所を対象にした調査です。中小企業のなかでも小規模な事業所の実態を反映している点が特徴です。
初任給については、厚生労働省の「新規学卒者初任給情報(令和 8 年春季卒業者)」を参照します。2026 年 3 月 1 日から 4 月 30 日の間に雇用保険の被保険者となった新規学校卒業者などを対象に、参考値として集計された資料です。初任給額は、毎月決まって支払われる給与(各種手当と現物給与を含み、超過勤務手当や賞与を含まない税込み)をもとに算出されています。
賃上げを実施した事業所は 52.5 %
2026 年 1 月から 6 月に賃金引上げを実施した事業所の割合は、産業計で 52.5 % でした。昨年の 49.2 % より 3.3 ポイント増加しています。一方、賃金引下げを実施した事業所は 0.5 % で、昨年の 0.8 % より 0.3 ポイント減少しました。
| 産業 | 1 〜 6 月に賃金引上げを実施した事業所の割合(2025 年 → 2026 年) |
|---|---|
| 産業計 | 49.2 % → 52.5 % |
| 製造業 | 54.2 % → 50.0 % |
| 卸売業、小売業 | 45.6 % → 52.1 % |
| 学術研究、専門・技術サービス業 | 54.1 % → 63.1 % |
| 宿泊業、飲食サービス業 | 37.4 % → 38.5 % |
| 生活関連サービス業、娯楽業 | 36.8 % → 41.9 % |
| サービス業 | 52.6 % → 49.7 % |
産業別にみると、賃金引上げを実施した事業所の割合は、製造業とサービス業以外で昨年より増加しました。学術研究・専門・技術サービス業が 63.1 % で最も高く、卸売業・小売業と製造業が 50 % 以上となっています。宿泊業・飲食サービス業と生活関連サービス業・娯楽業は 4 割前後にとどまり、業種による差が見られます。
7 月以降の賃金改定予定
7 月以降に賃金改定を実施する予定の事業所は、産業計で 21.7 % でした。7 月以降も賃金改定を実施しない事業所は 25.2 % です。7 月以降に改定を予定する事業所が全体の 2 割程度あることから、今年賃上げを実施する事業所は今後も増えることが予想されます。
平均賃金改定率は 4 〜 5 % 台
改定率のほうは、産業計で 4.3 % でした。昨年の 4.7 % より 0.4 ポイント減少しています。
| 産業 | 平均賃金改定率(2025 年 → 2026 年) |
|---|---|
| 産業計 | 4.7 % → 4.3 % |
| 製造業 | 5.0 % → 4.2 % |
| 卸売業、小売業 | 4.8 % → 4.0 % |
| 学術研究、専門・技術サービス業 | 4.0 % → 4.4 % |
| 宿泊業、飲食サービス業 | 4.7 % → 5.7 % |
| 生活関連サービス業、娯楽業 | 5.9 % → 5.4 % |
| サービス業 | 5.4 % → 4.1 % |
産業別では、宿泊業・飲食サービス業と生活関連サービス業・娯楽業が 5 % を超えました。また、学術研究・専門・技術サービス業と宿泊業・飲食サービス業は、昨年より平均賃金改定率が高くなっています。
賃上げを実施した事業所の割合は増えた一方で、改定率は昨年より下がっており、「多くの事業所が賃上げを行うが、上げ幅はやや抑えめ」という状況が読み取れます。
2026 年の大学卒初任給
新規学卒者初任給情報から、大学卒の水準を主な産業別に確認します。
男性の産業計は 26.0 万円
前年同期比は 103.6 % です。産業別では金融業・保険業が 27.3 万円で最も高く、次いで建設業の 27.2 万円、不動産業・物品賃貸業の 27.0 万円です。
| 産業 | 大学卒初任給(男性、前年同期比) |
|---|---|
| 産業計 | 26.0 万円(103.6 %) |
| 建設業 | 27.2 万円(103.4 %) |
| 製造業 | 26.1 万円(104.8 %) |
| 電気・ガス・熱供給・水道業 | 26.5 万円(107.3 %) |
| 情報通信業 | 26.2 万円(102.3 %) |
| 運輸業、郵便業 | 24.8 万円(105.1 %) |
| 卸売業、小売業 | 25.6 万円(102.8 %) |
| 金融業、保険業 | 27.3 万円(105.4 %) |
| 不動産業、物品賃貸業 | 27.0 万円(102.3 %) |
| 学術研究、専門・技術サービス業 | 26.2 万円(103.1 %) |
| 宿泊業、飲食サービス業 | 25.9 万円(105.3 %) |
| サービス業 | 25.0 万円(103.3 %) |
前年同期比は表中のすべての産業で 100 % を超えており、前年を上回る金額となっています。なかでも電気・ガス・熱供給・水道業が 107.3 % と最も高い伸びを示しています。
女性の産業計は 25.6 万円
前年同期比は 103.2 % です。産業別では金融業・保険業が 26.7 万円で最も高く、建設業の 26.5 万円、情報通信業と不動産業・物品賃貸業の 26.4 万円が続きます。前年同期比はすべての産業で 100 % を超え、電気・ガス・熱供給・水道業が 106.6 % で男性と同様に最も高い伸びです。
最低賃金の上昇や企業の賃上げ努力もあり、大学卒の初任給は増加しています。新卒採用を行う中小企業にとっては、産業計の 26 万円前後が応募者の目安になっていると考えておく必要があります。
賃上げに伴う人件費と社会保険料への影響
賃金を引き上げると、基本給の増加分だけでなく、それに連動する費用も増えます。賃上げの影響を試算する際は、次の項目を含めて考える必要があります。
| 項目 | 賃上げによる影響 |
|---|---|
| 社会保険料の会社負担分 | 標準報酬月額の上昇により、健康保険料・厚生年金保険料の会社負担が増加(報酬の約 15 %) |
| 労働保険料 | 賃金総額の増加により労災保険料・雇用保険料が増加 |
| 割増賃金 | 1 時間あたりの賃金額が上がり、残業代の単価が上昇 |
| 賞与 | 基本給連動で賞与を決めている場合は賞与も増加 |
| 退職金 | 基本給連動の退職金制度では将来の退職金債務が増加 |
たとえば月給 25 万円の従業員を 4.3 % 引き上げると、基本給の増加は月 10,750 円ですが、社会保険料の会社負担分などを加えると、会社の負担増は月 12,500 円前後になります。従業員 20 人なら年間 300 万円規模。小さくない金額です。
賃上げ促進税制の活用
賃上げを行った中小企業は、賃上げ促進税制によって法人税(個人事業主は所得税)の税額控除を受けられる場合があります。前年度と比べて雇用者全体の給与等支給額が 1.5 % 以上増加した場合に増加額の 15 %、2.5 % 以上増加した場合に 30 % を控除でき、教育訓練費の増加や子育て支援・女性活躍の認定を受けている場合には控除率が上乗せされます。
控除しきれなかった分は 5 年間繰り越せます。そのため、赤字の年度に賃上げをした場合でも将来の税額から控除できる可能性があります。賃上げの計画を立てる際には、税制の適用要件をあわせて確認しておくと、実質的な負担を抑えられます。
中小企業の賃金設計で考えたいこと
調査結果を踏まえて、賃金を決める際に考慮したい視点を整理します。
同業種の水準を把握する
賃上げの実施割合や改定率は業種によって差があります。自社の業種の水準と比較して、著しく見劣りしていないかを確認します。福岡県の最低賃金の改定額もあわせて確認し、時給換算で下回る従業員がいないかを点検してください。
一律の引き上げか、配分か
全員一律に同じ率で引き上げる方法のほか、若手や特定の職種に重点を置いて配分する方法もあります。採用競争が厳しい職種や、離職が多い層に厚く配分することで、限られた原資を効果的に使えます。
継続できる水準にする
一度引き上げた賃金を下げることは難しいため、将来の売上と利益の見通しのなかで継続できる水準を見極めます。月次の試算表から人件費率を確認し、賃上げ後の人件費率が経営を圧迫しない範囲かを試算したうえで決定してください。
当事務所の考え方
賃上げの水準は、月次の試算表から人件費率を出し、賃上げ後の人件費率が過去 3 年の範囲に収まるかで判断するようお伝えしています。同業他社の改定率は参考にはなりますが、自社の利益で続けられる水準が優先です。
賃上げ促進税制は、決算後に気づいても要件の確認が間に合わないことがあります。年度の初めに前年度の給与総額を確認し、1.5 % 以上の増加が見込めるかを把握しておくと、決算で控除を取りこぼしません。
よくある質問
賃金改定と初任給について、当事務所によく寄せられる質問をまとめます。
Q1. 賃上げをしないと従業員は辞めてしまいますか
賃金だけが離職の理由ではありませんが、同業他社の賃上げが続くなかで自社だけ据え置くと、相対的な待遇の低下として受け止められます。賃上げが難しい場合は、休日の増加や手当の新設、評価制度の見直しなど、賃金以外の待遇改善をあわせて検討することが現実的です。
Q2. 賃上げ促進税制はパートの賃上げも対象になりますか
雇用者全体の給与等支給額の増加で判定するため、パートやアルバイトの賃上げも含まれます。ただし、役員やその親族に支払う給与は対象から除かれます。適用要件の詳細は年度によって変わります。適用を検討する際に確認してください。
Q3. 初任給を上げると既存社員との逆転が起きそうです
新卒の初任給を引き上げる際は、2 年目、3 年目の社員の賃金との均衡を保つ必要があります。初任給だけを上げると若手社員の不満につながるため、若手層全体の賃金カーブを見直す形で調整するのが一般的です。
Q4. 賃上げ後の社会保険料はいつから変わりますか
固定的賃金の変動によって標準報酬月額が 2 等級以上変わる場合は、変動があった月から 3 ヶ月間の報酬の平均で随時改定を行い、4 ヶ月目から新しい保険料が適用されます。4 月に昇給した場合は 7 月から変わります。2 等級未満の変動であれば、翌年の定時決定で 9 月から反映されます。
Q5. 中小企業の賃上げの原資はどう確保すればよいですか
売上の増加や価格転嫁による粗利の改善、業務の効率化によるコスト削減が基本になります。価格転嫁が進まないまま賃上げだけを行うと利益を圧迫します。取引先との価格交渉と並行して進めてください。賃上げ促進税制や業務改善助成金など、公的な支援も活用してください。
連動する費用まで含めて水準を決める
厚生労働省の調査によると、2026 年 1 〜 6 月に賃上げを実施した小規模事業所は 52.5 % で昨年より増加し、平均賃金改定率は 4.3 % でした。大学卒初任給は男性 26.0 万円、女性 25.6 万円と、いずれも前年を上回っています。
賃上げは社会保険料や割増賃金などの連動する費用も増やします。人件費全体への影響を試算したうえで、継続できる水準を見極めてください。当事務所では、北九州エリアの中小企業の皆様に、賃上げの人件費シミュレーションや賃上げ促進税制の適用判定を含めた経営面からのサポートを行っています。賃金設計でお悩みの方は、お気軽にご相談ください。
